訪問看護の「過剰提供」是正へ 厚労省が2026年度診療報酬で見直しに動く理由

FP
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訪問看護は在宅で療養する高齢者や難病患者を支える重要なサービスです。一方で近年、一部の事業所による「過剰な訪問」や報酬の取りすぎが指摘されるようになりました。厚生労働省は2026年度の診療報酬改定で訪問看護の報酬体系を見直し、適切な提供体制へと誘導する方針を固めています。

今回の見直しは、訪問看護の利用が急増する中、限られた社会保障財源を持続させるための大きな転換点となります。本稿では、なぜ見直しが必要なのか、何が変わるのか、利用者や家族にどのような影響が及ぶのかを整理します。

1.訪問看護とは何か

訪問看護は、医師の指示を受けた看護師が自宅や高齢者住宅を訪問し、健康状態の確認、服薬管理、点滴、医療処置などを行うサービスです。

  • 介護保険が適用:要支援・要介護の認定者
  • 医療保険が適用:末期がん・難病など厚労省が定める疾病

在宅医療の推進に伴い、訪問看護の需要は年々拡大しています。


2.増加の背景:高齢者住宅と訪問看護ステーションの急増

近年特に伸びているのが、高齢者住宅の入居者に対する訪問看護です。

日経記事によると、
同一建物内で1日に3人以上へ訪問した回数は、この10年で15倍以上に増加。

背景には以下があります。

  • 高齢者住宅の近隣に訪問看護ステーションが続々と開設
  • 同一建物内で効率的に複数人へサービス提供できる
  • 医療保険を使えば介護保険より報酬水準が高いケースもある
  • 訪問回数を増やすことで高収益が得られる構造がある

効率化そのものは悪いわけではありません。しかし、一部では「必要以上に短時間の訪問を繰り返す」「高齢者住宅の入居者を中心に大量訪問する」などの過剰提供の疑いが指摘されています。


3.厚労省が問題視する「過剰な訪問」

厚生労働省は次の点を問題視しています。

① 一部事業所が高収益化

短時間の訪問を頻繁に行い、医療保険から多額の報酬を得ているケースがあると見られています。

② 必要性が不透明な訪問増加

連日の訪問や、1日複数回の訪問が医療的必要性とは言いがたい例が散見されるとの声もあります。

③ 同一建物での大量訪問

通常、同一建物で複数人を訪問する場合は報酬が減額されます。
しかし、現在は区分が大まかであるため、利用者数が増えても報酬が十分に抑制されていないとの指摘があります。


4.2026年度診療報酬改定でどう変わるのか

厚労省は以下の方向で見直しを進めます。

① 同一建物の訪問人数に応じた「細かい区分」を設定

現行:

  • 1~2人 → 通常報酬
  • 3人以上 → 約半額

改定案(方向性):

  • 3~5人
  • 6~10人
  • 11人以上
    など、人数に応じて報酬を段階的に引き下げる方向。

利用者が多いほど効率性が高くなるため、その分を報酬に反映し「適正化」する狙いです。

② 短時間・高頻度の訪問に新たな報酬区分

  • 1回あたりの訪問時間が極めて短い
  • 1日複数回の訪問を繰り返す

こうしたケースに対し、従来より低い報酬区分を設定する可能性が高いと見られます。

③ 医療保険の訪問看護の急増に歯止め

医療保険は単価が高いため、制度の持続性が懸念されていました。
今回の見直しで、必要性が曖昧な訪問の抑制を狙います。


5.利用者・家族・事業所への影響

■ 利用者・家族

  • 必要な医療ケアは引き続き受けられる
  • 不必要な訪問が減り、より効率的なケアが受けられる可能性
  • 一部の事業所では訪問回数が見直しされる可能性

■ 事業所

  • 同一建物を大量訪問するモデルは収益が減少
  • 適正なアセスメントとケアプランの作成がより重要に
  • 介護保険と医療保険の使い分けの透明性が求められる

■ 制度全体

  • 社会保障費の膨張抑制につながる
  • 本当に必要な利用者に資源を振り向けられるようになる

結論

訪問看護は在宅医療の柱であり、利用者の生活を支える重要な仕組みです。しかしその一方で、制度の隙間を突くような「過剰な訪問」が増えていることも事実です。

厚労省が進める2026年度診療報酬改定は、訪問看護サービスをより適正にし、限られた社会保障財源を守るための重要な一歩といえます。利用者にとっては質の高いケアの維持が期待され、事業所にはより丁寧で必要性の高いサービス提供が求められます。

高齢化が進む日本では、訪問看護を持続可能にする制度設計が不可欠です。今回の見直しを機に、在宅医療の質と効率性の両立が進むことが期待されます。


出典

  • 日本経済新聞「過剰な訪問看護是正 厚労省が診療報酬下げへ」(2025年11月29日 朝刊)

という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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