2024年度決算検査報告では、補助金や基金の執行・管理に関する指摘が多くみられました。
こうした問題の多くは、制度そのものの欠陥というよりも、執行プロセスにおける内部統制の弱さに起因します。
補助金の適正管理には、行政側の仕組みだけでなく、受給者側のガバナンス体制と外部専門家の関与が欠かせません。
本稿では、税理士・FPが補助金・基金の会計支援を行う際に留意すべき内部統制と監査対応の実務を解説します。
1. 補助金・基金における内部統制の基本構造
補助金や基金事業では、資金の流れが「国(交付元)→中間団体→実施法人」と複層的であり、各段階でのチェックが形式化しやすい傾向があります。
内部統制を有効に機能させるためには、以下の4つの観点を押さえる必要があります。
- 職務の分掌:申請・執行・報告を同一担当者が兼務しない体制
- 承認手続の明確化:補助金交付決定・支出命令・精算報告の各段階で責任者を明示
- 文書・証拠の保存:契約書・見積書・領収書を電子的にも整備し、改ざん防止策を講じる
- 定期的モニタリング:事業終了後も残額・成果の点検を行う(いわゆるex-post評価)
税理士・FPは、これらのプロセスが事業者の内部規程に落とし込まれているかを確認し、改善提案を行う役割を担います。
2. よくある内部統制不備のパターン
会計検査院の指摘事例を分析すると、次のような不備が頻出しています。
- 補助対象外支出の混在:事業経費と一般経費を区分せず計上
- 誤った期間配分:事業期間を超えて支出した経費を対象に含めている
- 書類の欠落・改ざんリスク:領収書の電子化不備、日付の不一致
- 基金残額の放置:使途決定が遅れ、年度をまたいでも未使用
これらは一見、経理実務上のミスに見えますが、実質的には内部統制の欠如を示しています。
税理士・FPとしては、単なる会計処理指導にとどまらず、リスク発生源の「業務プロセス」自体を可視化する支援が求められます。
3. 税理士・FPが関与する監査対応の実務
補助金や基金を受けた法人では、行政監査や外部会計監査を受けることがあります。
この際、税理士・FPが関与する場合は、次の3点が実務上の要所です。
① 監査対象の明確化
― 会計基準・補助金要綱・契約条項など、監査の枠組みを事前に確認する。
② 検査対応資料の整理
― 申請書・交付決定書・支出証憑・報告書を時系列で整理し、「資金の流れ」が一目でわかる資料を準備。
③ 改善報告の文書化
― 指摘事項に対する是正措置を「内部統制報告書」や「改善計画書」に落とし込み、再発防止策を明記。
これらは、監査対応における説明責任の一貫性を保つための基本です。
4. 再発防止に向けた実務的アプローチ
補助金や基金の不適正事案は、監査後に再発することが少なくありません。
再発防止のためには、次のような「3段階アプローチ」が有効です。
- 検証:会計検査院・行政監査の指摘内容を詳細に分析し、原因を特定する
- 改善:内部規程や申請フローの改訂、担当者教育の実施
- 定着:改善内容を年度ごとの業務マニュアルに反映し、PDCAを回す
税理士・FPは、このプロセスの「外部アドバイザー」として、制度運用の現場と行政監査の橋渡し役を果たすことができます。
特に、補助金事業に特化した内部統制チェックリストの整備は、今後の実務で重要なテーマとなるでしょう。
結論
補助金や基金の会計実務は、単なる帳簿処理にとどまらず、行政監査・ガバナンス・説明責任の交点にあります。
税理士・FPが内部統制の仕組みを理解し、再発防止策まで含めた実務支援を行うことは、公共資金の適正運用と顧問先の信頼向上の両立につながります。
「税金の使い方の監視役」としての専門家の役割が、これからの時代にますます重みを増していくはずです。
出典:
・会計検査院「令和6年度決算検査報告」
・総務省「行政評価・監視マニュアル」
・日本経済新聞(2025年11月6日朝刊)「税の無駄遣い540億円 昨年度、検査院報告」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
