自社株・事業承継と医療・介護の関係― 老後リスクが会社の未来を左右する ―

FP
緑 赤 セミナー ブログアイキャッチ - 1

事業承継の問題は、「いつ」「誰に」「どのように」引き継ぐかという経営の話として語られることが多くあります。
一方で、医療や介護は「個人の老後の問題」として切り離されがちです。

しかし、実務の現場では、社長の医療・介護の状況が、自社株の評価や事業承継の進め方に直接影響するケースが少なくありません。
老後の不確実な出来事が、結果として会社の未来を左右することもあります。

本稿では、自社株・事業承継と医療・介護がどのように結びついているのか、その関係性を整理します。


自社株は「換金しにくい老後資産」である

中小企業の社長にとって、自社株は最大の資産であることが珍しくありません。
しかし、自社株は上場株式とは異なり、自由に売却できる資産ではありません。

このため、自社株は「価値は大きいが、老後の生活費や医療・介護費用には直接使いにくい資産」です。
医療や介護が必要になったとき、現金が不足すると、自社株や事業用資産に手を付けざるを得ない状況に追い込まれることがあります。


医療・介護が事業承継を遅らせる構造

社長が病気や要介護状態になると、「まだ判断能力があるうちは自分で会社を見たい」という心理が働きやすくなります。
結果として、事業承継の判断が先送りされることがあります。

しかし、承継が遅れるほど、自社株の移転や経営権の整理は難しくなります。
特に、後継者が決まっていない場合や、親族と従業員の間で承継先が揺れている場合には、医療・介護が事業承継の停滞要因になりやすくなります。


医療・介護費用が自社株対策に与える影響

医療・介護費用が想定以上にかかると、現金を確保するために次のような選択を迫られることがあります。

・会社からの役員報酬を増やす
・配当を出す
・自社株の一部を後継者に売却する

これらは短期的には資金確保につながりますが、長期的には自社株評価や後継者の負担を重くする可能性があります。
医療・介護費用の問題が、結果として事業承継コストを押し上げることもあります。


事業承継が医療・介護リスクを軽減する側面

一方で、事業承継を早めに進めることで、医療・介護リスクを軽減できる側面もあります。
自社株や経営権を段階的に後継者へ移しておけば、社長自身の老後資金設計をシンプルにできます。

事業と生活を切り分けることで、医療・介護費用は個人の資産で賄い、会社経営は後継者に任せるという構造が作りやすくなります。
この切り分けができていないと、老後の出来事が会社経営に直接波及します。


自社株を「使わない資産」として守る発想

医療・介護と事業承継の関係で重要なのは、「自社株は老後費用に使わない資産」として位置づける発想です。
自社株は、承継のために残す資産であり、医療・介護費用の支払い原資にすることは、最終手段に留めるべきです。

そのためには、退職金、新NISA、預貯金など、流動性の高い資産で老後費用を賄える設計が不可欠です。
自社株に手を付けずに済む構造が、結果として事業承継を安定させます。


判断能力低下リスクと事業承継

医療・介護の問題で見落とされがちなのが、判断能力の低下です。
認知機能が低下すると、自社株の移転や承継手続きが進められなくなる可能性があります。

この場合、事業承継は相続まで持ち越され、相続人間での調整が必要になります。
結果として、事業承継が長期化し、会社の経営に悪影響を及ぼすことがあります。


医療・介護を見据えた事業承継の考え方

医療・介護と事業承継を一体で考える場合、次の視点が重要になります。

・老後の医療・介護費用は、流動資産で賄う
・自社株は承継のために温存する
・判断能力があるうちに承継の方向性を決める

これらを意識することで、老後の不確実性が事業承継の障害になるリスクを抑えることができます。


結論

自社株・事業承継と医療・介護は、切り離して考えることができないテーマです。
医療・介護費用への備えが不十分だと、自社株に手を付けざるを得なくなり、事業承継が複雑化します。

社長・個人事業主にとって重要なのは、「老後の出来事が会社に影響しない構造」を早めに作ることです。
医療・介護と事業承継を一体で設計することが、会社と家族の双方を守る現実的な対策といえるでしょう。


参考

・日本経済新聞「新NISA、2年目は7%増の12兆円 資産形成、インフレで拡大」(2025年12月30日朝刊)


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

タイトルとURLをコピーしました