1. 「CASE」の時代に求められる投資
これまでのシリーズで見てきたように、国内完成車メーカー7社の研究開発費は2026年3月期に合計3兆9,440億円、売上高比率で3.9%にとどまります。海外勢の5〜7%に比べれば見劣りする数字ですが、重要なのは金額の大小ではなく、どこに使うのかです。
自動車産業が直面している変革は「CASE」という言葉で表現されます。
- C:Connected(つながるクルマ)
- A:Autonomous(自動運転)
- S:Shared(シェア・サービス化)
- E:Electric(電動化)
この4分野はいずれも従来のガソリン車開発以上にソフトウェアやデータ活用を必要とします。研究開発費の配分が「CASEを制するかどうか」に直結する時代なのです。
2. EVの鈍化とSDVへのシフト
近年のEV市場は「急成長からの一服」という段階に入っています。中国や欧州では補助金縮小の影響もあり、需要が鈍化。ホンダがEV投資計画を10兆円から7兆円へ縮小したのは象徴的です。
しかし、EVが頭打ちだからといって投資を引っ込めるわけにはいきません。各社は**「SDV(ソフトウェア・デファインド・ビークル)」**に重点を移しつつあります。
車両をソフトで進化させ、購入後も機能をアップデートできる仕組みは、今後の収益モデルの中心になる可能性があります。
3. 自動運転と安全技術
もう一つの焦点は自動運転。
海外ではテスラや中国勢が先行しており、日本勢は「慎重」な姿勢が目立ちます。安全性の担保を優先する姿勢は強みでもありますが、技術競争に遅れるリスクも抱えます。
研究開発費を安全技術と自動運転AIにどう振り分けるかは、将来の国際競争力に直結するでしょう。
4. 水素・次世代バッテリーという「もう一つの道」
EVの主役はリチウムイオン電池ですが、その先を見据えた全固体電池や**水素燃料電池(FCV)**への研究も重要です。
トヨタは水素にも力を注ぎ、マツダやスズキも小型車向けの電動化で独自の研究を進めています。研究開発費を「多様な未来技術」に分散させる戦略が、日本メーカーの特徴といえます。
5. 短期利益 vs 長期成長
研究開発費は短期的には利益を圧迫します。2026年3月期は7社合計で営業利益が4割減の見通しですが、それでも投資を削りすぎれば将来の競争力を失います。
経営者にとっては「今の株主への説明」と「未来の成長」の間での難しい舵取りが求められています。
6. 読者への問いかけ:未来のクルマを誰が創るのか
国内メーカーは「効率的に成果を出す」伝統を持っています。しかし世界がソフトウェア中心に移行するなかで、効率だけでは勝てない領域が広がっています。
研究開発費をどこに重点配分するかは、単なる経営戦略ではなく、10年後の日本の産業地図を決める選択です。
まとめ(シリーズ総括)
- 国内7社の研究開発費は26年3月期で3.9%、海外勢の5〜7%に劣る
- EV市場の鈍化で投資は鈍化する一方、SDVや自動運転へのシフトが進む
- 水素や次世代バッテリーなど「次の一手」への分散投資が特徴
- 研究開発費は利益圧迫要因だが、削れば未来を失うリスク
- 投資の「金額」より「具体性と方向性」が未来を左右する
おわりに
このシリーズでは、研究開発費を切り口に国内完成車メーカーの現在地と課題を追いました。今後5〜10年で自動車は「モノ」から「ソフトとサービス」へと進化していきます。その未来を誰がリードするのか――研究開発費の使い道が答えを左右することは間違いありません。
👉 参考:日本経済新聞「車7社、研究開発費3.9%」
記事リンク(日経)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
