近年、自動車の利用形態は大きく変化しています。車を「所有する」時代から、「必要なときに使う」時代へと移行しつつあります。カーシェアリングやライドシェアに加え、電動キックボードといった新たなモビリティも急速に普及しています。
こうした変化は、単に移動手段の多様化にとどまりません。保険のあり方にも大きな影響を与えています。本稿では、新しいモビリティ時代における保険の基本的な考え方と実務上の注意点を整理します。
モビリティの多様化と制度変更
まず押さえておくべきは、電動キックボードの位置づけです。
2023年7月の道路交通法改正により、一定の要件を満たすものは「特定小型原動機付自転車」として扱われるようになりました。これにより、16歳以上であれば運転免許がなくても利用できるケースが生まれています。
ただし、ここには重要な注意点があります。すべての電動キックボードがこの区分に該当するわけではなく、要件を満たさない場合は従来どおり免許が必要です。
つまり、見た目が似ていても法的な扱いが異なるという点が、リスク管理上の第一の落とし穴になります。
「所有から利用へ」が保険を変える
従来の自動車保険は、「自分の車を継続的に使う」ことを前提に設計されていました。そのため、
・年間契約
・固定保険料
・一定の補償内容
という形が基本です。
しかし、カーシェアやライドシェアの普及により、利用の実態は大きく変わりました。
・使うときだけ利用する
・短時間・短距離の利用が増える
・車両を所有しない人が増える
こうした変化に対応して登場したのが、オンデマンド型保険です。
オンデマンド型保険の特徴
オンデマンド型保険は、従来型と比べて以下の特徴を持ちます。
・必要な時間だけ加入できる
・料金は利用時間や距離に応じて変動
・補償内容を柔軟に選択可能
つまり、「使った分だけ保険をかける」という発想です。
これは、サブスクリプションや従量課金モデルと同じ流れにあるものであり、モビリティの変化と保険の変化が連動していることが分かります。
カーシェアに潜む見落としがちなリスク
カーシェアリングの場合、多くのサービスでは保険が利用料金に含まれています。そのため、利用者は「保険は入っている」と認識しがちです。
しかし、ここにも重要な注意点があります。
代表的なものが以下です。
・免責額の存在
・ノンオペレーションチャージ(NOC)
・補償上限の制約
例えば事故を起こした場合、修理費の一部を自己負担する必要があるケースや、車両が使えない期間の営業補償を請求されるケースがあります。
これは、従来の自動車保険でいう「自己負担部分」が別の形で存在していると理解すべきです。
電動キックボードでも「加害者リスク」は同じ
新しいモビリティにおいても、保険の本質は変わりません。
事故は「被害者になるリスク」だけでなく、「加害者になるリスク」を伴います。
特に電動キックボードは、
・車道と歩道の両方に関係する
・歩行者との接触リスクが高い
・利用者の保険意識が低い
といった特徴があります。
そのため、個人賠償責任保険の重要性はむしろ高まっているといえます。
新しいモビリティ時代の保険戦略
ここまでを踏まえると、今後の保険の考え方は大きく変わります。
ポイントは以下のとおりです。
第一に、「所有前提の保険から脱却する」ことです。
車を持たない人でもリスクは存在するため、個人単位での補償を考える必要があります。
第二に、「利用ごとのリスク管理」です。
カーシェア、レンタカー、電動キックボードなど、それぞれで補償内容を確認することが重要です。
第三に、「重複と不足のバランス」です。
既存の保険(自動車保険・火災保険の特約など)と、新しいサービスの保険がどう重なるかを把握する必要があります。
結論
モビリティの進化は、「移動の自由」を広げる一方で、「リスクの所在」を見えにくくしています。
従来は「車に保険をかける」発想でしたが、これからは「人の行動に保険をかける」発想へと転換していきます。
特に都市部では、車を持たずに複数のモビリティを使い分ける生活が一般化していきます。その中で重要なのは、サービス任せにせず、自分自身で補償内容を理解し、必要な備えを選択することです。
新しいモビリティ時代においては、「何に乗るか」ではなく「どのようにリスクを管理するか」が問われています。
参考
・日本FP協会 トレンドウォッチ「自動車と新しいモビリティ保険」
・警察庁 道路交通法改正資料(2023年7月施行)
・各カーシェアリング事業者の利用規約・保険内容資料