上場企業の株主還元をめぐる議論は、近年ますます熱を帯びています。配当性向の引き上げや自社株買いの拡大は、日本株市場全体の評価を左右する重要なテーマです。
そうした中で注目されたのが、アシックスが中間配当を実施するにあたり「臨時決算」を行ったというニュースでした。連結では十分な利益があるにもかかわらず、単独決算上の制約から追加の手続きを要した点は、日本の会社法制度が抱える構造的な課題を浮き彫りにしています。
臨時決算とは何か
臨時決算とは、事業年度の途中で行う決算手続です。
会社法上、配当や自社株買いは「分配可能額」の範囲内でしか実施できません。この分配可能額は、原則として単独決算ベースの剰余金を基準に計算されます。
期中に利益が出ていても、直近の確定した単独剰余金が不足していれば、中間配当を行うことはできません。そこで、期中の利益を分配可能額に反映させるために臨時決算が行われます。
分配可能額規制の本来の目的
分配可能額規制は、債権者保護を目的とした制度です。
会社が安易に配当を行い、財産が流出すれば、債権者の回収可能性が損なわれます。そのため、確定した単独財務諸表に基づき、慎重に分配可能額を管理する仕組みが採用されてきました。
この考え方自体は、制度として合理性があります。
連結経営時代とのミスマッチ
問題は、上場企業の経営実態が大きく変わっている点にあります。
投資家の評価軸は完全に連結決算に移行し、企業自身もグループ全体での資本効率や収益性を重視しています。
アシックスの例では、連結利益剰余金は2,000億円超、自己資本比率も高水準でした。それでも単独決算の制約から、86億円の中間配当のために臨時決算が必要となりました。
一方で、連結では利益剰余金がマイナスであるにもかかわらず、単独では配当が可能な企業も存在します。この状況は、債権者保護という制度趣旨と必ずしも整合的とは言えません。
なぜ連結分配規制が導入されてこなかったのか
連結概念を分配可能額に取り入れる議論は、以前から存在しています。
しかし、子会社の利益は配当を受けて初めて親会社の財産になる、という法的整理が大きな壁となってきました。また、連結数値を用いた場合の計算の複雑さや、制度設計の難しさも指摘されています。
その結果、制度は長年、単独決算ベースのまま維持されてきました。
株主還元圧力の高まりと制度の再検討
近年は、物言う株主の増加や資本市場からの要請を背景に、株主還元への期待が急速に高まっています。
グループ経営を前提とする上場企業に対し、単独決算のみで配当制限を行うことが、果たして実態に即しているのかは再考の余地があります。
例えば、100%子会社に限定して連結損益を分配可能額に反映させるなど、段階的な制度導入も考えられるでしょう。
税務・FPの視点から見た示唆
この問題は、企業法務や会計だけでなく、税務やファイナンシャル・プランニングの視点からも重要です。
配当政策は、法人税・株主課税・資本政策と密接に関わります。制度の歪みは、企業行動を不必要に複雑化させ、結果として資本効率の低下を招く可能性があります。
臨時決算が「常識」になる状況は、本来の制度設計が現実に追いついていないサインとも言えます。
結論
臨時決算は、現行制度の中で企業が選択できる合理的な対応策です。しかし、それが常態化しているのであれば、制度そのものを見直す時期に来ているとも考えられます。
連結経営が前提となった現在、分配可能額規制にも連結の視点をどう組み込むか。これは、株主還元と債権者保護のバランスを再構築する重要な論点です。
今後の会社法制の議論において、より実態に即した分配規制が検討されることが期待されます。
参考
・日本経済新聞「臨時決算と連結分配規制」
・会社法(分配可能額に関する規定)
・上場企業の連結財務諸表に関する開示資料
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
