賃上げ促進税制において、「継続雇用者」の判定は最も実務上のミスが発生しやすい論点の一つです。制度上はシンプルに見えるものの、実際の現場では雇用形態の変更や入退社、出向など多様なケースが存在し、形式的な判断では対応できません。
本稿では、継続雇用者判定における典型的な論点と、実務上の判断ポイントを整理します。
継続雇用者判定の基本的な考え方
継続雇用者とは、前事業年度から引き続き雇用されている従業員を指します。
ただし、ここで重要なのは、
「単に在籍しているかどうかではなく、比較可能な状態で継続しているか」
という点です。
この考え方を理解していないと、形式的な在籍状況だけで誤った判定をしてしまう可能性があります。
なぜ判定が難しいのか
継続雇用者の判定が難しい理由は、実務上の雇用形態が多様であるためです。
例えば、
・年度途中での入社・退社
・雇用形態の変更
・出向や転籍
といった事象が発生すると、「継続している」と言えるのかどうかの判断が曖昧になります。
ケース①:年度途中で入社した従業員
年度途中で入社した従業員は、前年度には存在しないため、原則として継続雇用者には該当しません。
この場合、その従業員の給与増加は賃上げとして評価されません。
実務上の誤り
新規採用者の給与増加を含めて賃上げ率を算定してしまうケースがありますが、これは制度趣旨と異なります。
ケース②:年度途中で退職した従業員
年度途中で退職した従業員については、
・比較対象として含めるのか
・除外するのか
の判断が必要となります。
この点は、単純な在籍の有無ではなく、比較期間における給与の取り扱いを踏まえて判断する必要があります。
ケース③:雇用形態の変更
例えば、
・パートから正社員への転換
・契約社員から正社員への変更
といった場合、同一人物であっても条件が大きく変わります。
判断のポイント
このような場合には、
・雇用関係が継続しているか
・給与の比較が適切に行えるか
を基準に判断します。
単なる形式変更であれば継続と考えられる一方で、実質的に別の雇用と評価される場合には慎重な判断が必要です。
ケース④:出向・転籍がある場合
出向や転籍は、継続雇用者判定において特に難しい論点です。
出向の場合
出向については、
・雇用契約が維持されているか
・給与の支払主体
によって判断が分かれます。
転籍の場合
転籍は、雇用関係が一度終了するため、原則として継続雇用者とはなりません。
ケース⑤:休職・育児休業等
休職や育児休業中の従業員についても、
・雇用関係が継続しているか
・給与の支給状況
に応じて判断が必要となります。
実務上の典型的な落とし穴
継続雇用者判定においては、次のような誤りが多く見られます。
① 在籍していればすべて含めるという誤解
単に在籍しているだけでは、継続雇用者とは限りません。
② 人事データをそのまま使用してしまう
人事システム上の在籍情報をそのまま使用すると、制度上の定義とズレることがあります。
③ ケースごとの判断を行っていない
個別事情を考慮せず、一律のルールで処理してしまうケースです。
判断の実務フレーム
継続雇用者の判定にあたっては、次の視点で整理することが有効です。
・前年度からの雇用関係が継続しているか
・給与の比較が合理的に可能か
・制度趣旨に照らして適切か
この3点を軸に判断することで、実務上の誤りを防ぐことができます。
本シリーズにおける位置付け
継続雇用者の判定は、次回以降の計算実務に直結します。
特に、
・給与増加率の算定
・月数調整
・別表計算
の前提となるため、この理解が不十分な場合、すべての計算が誤る可能性があります。
結論
継続雇用者の判定は、賃上げ促進税制の中でも最も実務判断が求められる論点の一つです。
形式的な判断ではなく、
・雇用の実態
・比較可能性
を踏まえた判断が不可欠となります。
制度の正確な適用のためには、個別ケースごとの検討を行い、慎重に判断することが求められます。
参考
東京税理士協同組合教育情報事業配布資料(全国統一研修会)「実務上の留意点と別表計算の設例確認」