物価の上昇や社会保険料の負担増で、家計のやりくりに悩む家庭は少なくありません。特に低所得層や子育て世帯では、生活費の増加に加え、将来への不安も重なり「暮らしの安心」をどう確保するかが大きな課題です。
こうした状況を受けて注目を集めているのが「給付付き税額控除」という仕組みです。2025年9月、石破茂首相が公明党の斉藤鉄夫代表、立憲民主党の野田佳彦代表と会談し、制度設計に向けた協議を始めることで合意しました。
超党派での議論が動き出したことで、日本でもいよいよ導入に向けた現実味が増してきたといえます。
この記事では、給付付き税額控除の仕組みやメリット、導入の課題、そして今後の政治的な展望について詳しく見ていきます。
給付付き税額控除とは何か
まず、通常の「税額控除」との違いを整理しましょう。
- 税額控除:所得税額から一定額を差し引く仕組み。例えば所得税10万円を納める人が5万円の控除を受ければ、実際の負担は5万円に減ります。
- 課題:ただし、もともと税額が少ない低所得者は控除しきれず、十分な恩恵を受けられません。
そこで登場するのが「給付付き税額控除」です。
これは、控除しきれなかった分を現金給付で補う制度です。
例を挙げると――
- 所得税納税額:10万円
- 控除額:15万円
この場合、まず10万円は税額から差し引かれます。残りの5万円は「現金」として本人に支給されます。
つまり、税を払う力が小さい人でも同じ支援を受けられるのが特徴です。
どんなメリットがあるのか
給付付き税額控除が注目される理由は、従来の一律給付や消費税減税ではカバーしきれなかった問題に対応できるからです。
① 消費税の逆進性を和らげる
消費税は所得にかかわらず同じ税率が課されるため、所得が低い人ほど負担感が大きくなります。
一律で税率を下げても、消費額の大きい高所得者ほど減税の恩恵が大きくなるという矛盾がありました。
給付付き税額控除なら、所得の低い層に重点的に支援を届けることができます。
② 一律給付より効率的
定額給付金や減税はスピーディーに実施できる反面、対象を絞らないために膨大な財源が必要となります。
給付付き税額控除なら、限られた財源で「必要な人」に届く仕組みを作れるため、政策効果を高めやすいのです。
③ 海外での成功事例
カナダや英国では、母子家庭の貧困対策や子育て支援の柱として導入されています。
特にカナダの「児童税額控除(Canada Child Benefit)」は、子どものいる低所得世帯の生活を支える大きな役割を果たし、貧困率の低下にも寄与しました。
こうした実績は、日本が制度を検討するうえで大きな参考になります。
制度設計の難しさ
一方で、導入に向けてはさまざまな課題があります。
① 所得・資産の把握
誰にいくら給付するかを決めるには、所得だけでなく資産も正確に把握する必要があります。
マイナンバー制度や金融口座とのひも付けが進めば可能になりますが、プライバシーへの懸念や国民の理解が欠かせません。
② 事務コストとスピード
単純な一律給付や消費税減税と比べると、仕組みが複雑になりやすいのが難点です。
制度を整えるまでに時間がかかり、支援が必要な時にすぐに届かないリスクもあります。
③ 政治的合意形成
財源をどう確保するか、どの層までを対象にするか。
これらをめぐって与野党や国民の間で意見が割れる可能性があります。社会保障制度全体の改革と絡めて議論しなければならず、簡単には進まないでしょう。
政治の動きと狙い
今回の党首会談で、自民・公明・立憲民主の3党が協議体を設けることが決まりました。
さらに、日本維新の会や国民民主党も参院選の公約に給付付き税額控除を掲げており、超党派的な議論の広がりが期待されています。
ここには政治的な思惑もあります。
自民党は公明党と合わせても国会で過半数を割り込んでおり、野党との協力は政権運営上の大きな課題です。
給付付き税額控除という「低所得者支援」という大義を掲げることで、連立協力や政権基盤の強化につなげたい狙いも見えます。
一方で、立憲民主や他の野党にとっても「格差是正」「生活支援」というテーマは有権者に訴えやすく、超党派での協調を示すことが政治的なプラスになると考えられます。
社会保障改革とのつながり
石破首相は会談で、給付付き税額控除の議論に加えて「社会保障全体の将来像を腰を据えて議論する」と述べています。
税と社会保障は切っても切り離せない関係です。
- 高齢化に伴う医療・介護費用の増大
- 年金制度の持続可能性
- 保険料負担の世代間格差
こうした問題に対処するには、税や保険料、給付を一体で見直す必要があります。
給付付き税額控除は、単なる家計支援策にとどまらず、こうした大きな社会保障改革の呼び水になる可能性を秘めています。
今後の展望
導入が決まれば、国民生活への影響は大きなものになります。
特に低所得層や子育て世帯にとっては、生活の安定と将来への安心につながるでしょう。
ただし、制度の複雑さや財源の制約から「絵に描いた餅」にならないようにすることが不可欠です。
スムーズな所得・資産把握の仕組み、迅速な給付体制、そして国民の理解――。
これらをどう整えていくかが、成功のカギを握ります。
まとめ
- 給付付き税額控除は、税額控除と現金給付を組み合わせた仕組み
- 低所得者ほど恩恵が大きく、消費税の逆進性を補う効果が期待される
- カナダや英国では実績があり、日本でも超党派での協議が始まった
- 課題は「所得把握」「事務コスト」「政治的合意」
- 社会保障全体の改革とセットで進めることが重要
一律の減税や給付ではなく、「必要な人に、必要な支援を」届ける新しい形。
給付付き税額控除がどのように制度化され、私たちの生活にどう影響するのか。今後の議論を丁寧に追いかけることが求められています。
👉 本記事は 2025年9月20日付 日本経済新聞朝刊 を参考に作成しました。
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

