生成AIがビジネスの現場に浸透しつつあるいま、経理担当者の「働き方改革」も大きな転換点を迎えています。
中小企業ではまだAI活用の実践例が少ないものの、「AIを使いこなす側に回る」意識を持つことが、
これからの経理パーソンにとって不可欠になりつつあります。
第1章 まずは「触ってみる」から始めよう
『企業実務』の調査によると、生成AIを業務で使っている中小企業の管理職は12.6%、一般社員は9.5%にとどまります。
まだまだ黎明期といえる状況です。
しかし今は、先行者利益を得られる絶好のチャンス。
AIを拒むのではなく、「まずは試してみる」ことが第一歩です。
たとえばこれまで会計処理をGoogle検索していたような場面で、
ChatGPTなどのAIに質問してみる。
意外なほど的確な答えが返ってくることに気づくはずです。
メール対応でも、AIに要約を依頼してから返信文を作ることで、
驚くほどの時短効果が得られます。
「AIに聞いてみるのが当たり前」になる。
その感覚を体で覚えることが、経理業務の変革の第一歩です。
第2章 AIが組み込まれた「経理システム」へ
AIエージェント(自律的にタスクをこなすAI)が進化することで、
経理の世界にも大きな変化が訪れようとしています。
いまはまだ「使う意識」が必要ですが、
近い将来、AIは会計ソフトや経費精算・契約書管理システムなど、
あらゆるツールに自然に組み込まれる存在になります。
マネーフォワード社では、
グループ会社間で異なる勘定科目を自動で対応づけるAI機能を導入済みです。
このようにシステムにAIを“内蔵”させることで、
人手による照合や転記といった作業は確実に減少していきます。
重要なのは、データを集約(セントラル化)すること。
経費データと勤怠データを結びつけるなど、複数情報を掛け合わせることでAIの精度は飛躍的に上がります。
AIを活かす経理へ――「データの一元管理」が今後の鍵になります。
第3章 求められる新スキル ―「指示出し」と「判断力」
AI時代の経理では、
「作業する人」から「指示を出し、結果を判断する人」へと役割が変わります。
AIは思考すら代替しつつありますが、
税制改正や会計基準変更など、現場の運用を正しく理解し反映できるのは人間だけです。
したがって、プロンプトエンジニアリング(AIへの指示出し力)と、
専門知識にもとづく判断力が不可欠です。
今後は「AIを使った経験」が経理採用の条件になる日も近いでしょう。
AIの提案を見抜き、正誤を判断できる「人間の目」が価値を持ちます。
第4章 実践事例 ― 経理がAIをどう使うか
実際に現場で活用が進んでいる生成AIの例を見てみましょう。
● Geminiでの資料作成・分析
PDFなど構造化されていないファイルからデータを抽出し、
報告書や申告書別表の作成を支援。
複数ファイルをまとめて投入し、事実関係を自動整理するなど、
経理の情報整理力をAIが補助します。
また、Geminiの「ディープリサーチ」機能を使えば、
会計基準の改正点を自動的にまとめたり、
決算短信からグラフ付きの増減分析を作成することも可能です。
● NotebookLMでの「会計チャットボット」
NotebookLMでは、複数の資料を読み込ませて
オリジナルのチャットボットを構築できます。
リース会計基準やIT補助金など、特定テーマに関する情報を
質問形式で確認できるため、専門知識の共有ツールとして有効です。
さらに音声読み上げやマインドマップ機能もあり、
税制改正資料などの“ながら学習”にも役立ちます。
● Gensparkでの自動分析・プレゼン作成
Gensparkの「AIシート」を使えば、
増減分析表を数分で作成可能。
「1億円以上かつ30%以上の増減を赤で表示」と指示するだけで、
条件付き書式まで自動設定されます。
さらに決算短信PDFをアップロードし、
「役員向けプレゼン資料を作成」と依頼するだけで、
5分足らずで高品質なスライドを自動生成。
まさにAIが“忠実な部下”のように働く時代です。
第5章 AI時代の経理パーソンに必要なこと
生成AIの進化によって、単純作業は急速に自動化されます。
経理担当者が生き残るためには――
- AIを積極的に活用し、「共存する姿勢」を持つこと
- 会計・税務・実務慣行など、人間しか持たない専門知識を磨き続けること
- AIに正確な指示を出せる「言語化力」を鍛えること
が求められます。
AIは敵ではなく、新しいパートナーです。
「自分の分身」としてAIを育てていく姿勢が、
これからの経理のキャリアを大きく左右するでしょう。
おわりに
AIは経理の仕事を奪うのではなく、
時間と労力を取り戻すための“味方”です。
「作業」から「判断」へ、
そして「管理」から「創造」へ。
経理の働き方改革は、AIとの協働によって本当の意味で始まります。
さあ、あなたも今日からAIに“触れて”みませんか。
出典:『企業実務 2025年8月号』(日本実業出版社)
「【座談会】経理担当者の働き方改革~生成AI活用~」より再構成・要約
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
