米国で暗号資産の規制を明確化する「クラリティー法案」が議論されています。成立すれば、これまで曖昧だった暗号資産の法的分類と監督当局の管轄が整理される可能性があります。
暗号資産市場はこれまで技術革新と価格変動の両面で注目されてきましたが、制度面では長らく「グレーゾーン」が残されてきました。その曖昧さこそが、成長の足かせであり、同時にリスクの源泉でもありました。
本稿では、米国の規制整理が意味するものを、制度・金融市場・日本への波及という三つの観点から整理します。
なぜ「グレーゾーン」が問題だったのか
米国では、暗号資産が「証券」なのか「商品」なのかを巡り、監督当局の管轄が明確ではありませんでした。
・証券に該当すればSEC(米証券取引委員会)の管轄
・商品に該当すればCFTC(米商品先物取引委員会)の管轄
この線引きが曖昧なまま、SECが既存の証券法を根拠に強い執行権限を行使してきました。業界側は「事後的な裁量的執行」だとして反発し、明確なルール設定を求めてきました。
規制が曖昧であることは、投資家保護の観点では柔軟性を確保する利点もあります。しかし一方で、
・どのトークンが証券に該当するのか分からない
・取引所の登録義務が不透明
・新規プロジェクトの法的リスクが読めない
といった問題があり、資本市場としての発展を妨げていました。
クラリティー法案の核心
今回議論されている法案のポイントは、分散性の高い暗号資産を「商品」と位置づけ、CFTCの監督下に置く方向で整理する点です。
例えば、ビットコインやイーサリアムのように特定主体に支配されないものは商品扱いとなる可能性があります。一方で、国債など従来資産のトークン化商品は証券とされ、SECの管轄となる構図が想定されています。
これは単なる行政整理ではありません。
「暗号資産を何として扱うか」という制度哲学の明確化を意味します。
さらに、2025年に成立したステーブルコイン包括法(通称ジーニアス法)との整合も重要な論点です。発行体の利息提供は禁止されている一方、交換業者の報酬制度には明確な規制がなく、銀行側は預金流出リスクを警戒しています。
ここは単なる暗号資産規制ではなく、「銀行預金との競合」という金融構造の問題でもあります。
市場への影響――価格よりも制度の意味
法案成立が期待される背景には、投資環境の改善観測があります。
規制の明確化は、機関投資家の参入を後押しする可能性があります。法的リスクが低減されれば、
・年金基金
・保険会社
・大手運用会社
などの資金流入が進みやすくなります。
もっとも、価格が上昇するかどうかは短期的には別問題です。ビットコイン価格は過去最高値から大きく調整しています。制度整備が直ちに需給改善をもたらすとは限りません。
重要なのは、「投機対象」から「制度化された資産クラス」への移行です。
これは、株式市場が証券取引法整備を経て成熟した過程と重なります。市場は規制が強まることで弱体化するのではなく、むしろ安定的な資本流入を得る土台を獲得します。
日本への示唆
日本ではすでに資金決済法や金融商品取引法の枠組みで一定の整理が進んでいます。しかし米国の制度設計は、世界標準の形成に直結します。
米国で「商品」として位置づけられた場合、
・税制区分
・会計処理
・投資信託組成
・ETF拡大
といった分野に波及します。
とりわけ税制との接点は大きな論点です。暗号資産が商品的性格を明確にすれば、分離課税化の議論にも影響を与える可能性があります。
制度が定まると、課税設計も安定します。
課税が安定すると、事業承継や法人活用などの戦略設計も可能になります。
規制明確化は単なる価格材料ではなく、「設計可能性」の拡張なのです。
制度整備は「終わり」ではなく「始まり」
暗号資産は長らく制度の周縁に置かれてきました。
しかし、ステーブルコイン法の成立、そしてクラリティー法案の議論は、明らかに段階が変わったことを示しています。
問題は、「規制が厳しくなるかどうか」ではありません。
・誰が監督するのか
・どのルールで競争するのか
・既存金融との境界をどう引くのか
これが明確になること自体が、産業発展の前提条件です。
制度が曖昧なままの成長は続きません。
明確なルールの下でこそ、持続的な市場が形成されます。
米国の動きは、暗号資産市場が第二フェーズに入ったことを示す象徴的な出来事といえるでしょう。
参考
日本経済新聞 2026年2月28日夕刊
「米仮想通貨、監督当局明確に 業界待望の脱『グレーゾーン』」

