築古マンション問題と税制の限界 ― 減税で老朽化は止められるのか

税理士
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日本の都市部には、築40年、50年を超える分譲マンションが急増しています。
高度経済成長期からバブル期にかけて大量供給されたマンションが、いま一斉に高経年化の局面に入っています。

政府はマンション長寿命化促進税制などを通じて修繕や管理の適正化を後押ししていますが、果たして税制だけで築古マンション問題は解決できるのでしょうか。

本稿では、築古マンション問題の構造と、税制の役割、そしてその限界を整理します。


築古マンションが抱える三つの構造問題

築古マンション問題は、単なる「建物の老朽化」ではありません。
より本質的には、次の三つの問題が絡み合っています。

1 修繕積立金不足

初期設定が低水準であったケースや、長年の値上げ見送りにより、将来の大規模修繕に必要な積立金が不足しているマンションが少なくありません。

工事費は建築資材価格の上昇や人件費高騰により増加傾向にあり、積立金不足は深刻化しています。

2 所有者の高齢化

区分所有者の高齢化が進み、

・修繕負担能力の低下
・合意形成への消極姿勢
・相続未登記の増加

といった問題が顕在化しています。

管理組合の機能低下は、建物劣化の加速につながります。

3 建替え困難

建替えには原則として区分所有者の5分の4以上の賛成が必要です。
高齢化・所得格差・居住継続希望などが障壁となり、実際に建替えに至る事例は限定的です。

つまり、築古マンション問題は「資金」「合意」「制度」の三重苦に直面しています。


マンション長寿命化促進税制の役割

マンション長寿命化促進税制は、こうした状況の中で、

・修繕積立金確保の後押し
・長寿命化工事実施の促進
・管理計画認定制度との連動

を目的として設けられました。

工事翌年度の建物部分の固定資産税を一定割合減額することで、管理組合の合意形成を後押しする設計です。

実績としては1万戸超が適用されており、制度は一定程度活用されています。


しかし、税制には限界がある

問題は、固定資産税減額が構造問題を根本的に解決できるかという点です。

1 インセンティブの規模

減税額は一定の効果を持ちますが、大規模修繕費用全体から見れば限定的です。
数億円単位の工事に対して、固定資産税減額は心理的後押しにはなっても、財源の本丸ではありません。

2 所得格差問題は解決できない

所有者間の所得格差や支払能力の問題は、税制だけでは調整できません。
負担能力の乏しい高齢者が多数を占める場合、修繕決議そのものが難航します。

3 合意形成の壁

合意形成の難しさは、金銭的問題だけではありません。

・住み続けたい
・借入は避けたい
・資産価値より生活重視

といった価値観の差が調整を困難にします。
税制はあくまで金銭的誘導策であり、合意形成そのものを保証するものではありません。


築古マンション増加という時間的圧力

築20年以上の分譲マンションはすでに100万戸単位で存在し、今後も増加が見込まれています。

時間の経過は、

・劣化の進行
・管理組合機能の低下
・空き住戸の増加

を加速させます。

税制は単年度措置であることが多く、時間軸との戦いという側面には十分対応できない場合があります。


税制は「補助輪」にすぎない

税制の役割は否定できません。
しかし、それはあくまで補助輪的な位置づけです。

本質的に必要なのは、

・修繕積立金水準の適正化
・管理組合ガバナンスの強化
・建替え要件の見直し
・金融支援策の整備

といった制度全体の再設計です。

税制は、その一部を補完する手段にすぎません。


都市政策としての視点

築古マンション問題は、個々の区分所有者の問題を超え、都市政策の課題でもあります。

放置すれば、

・スラム化
・防災リスク増大
・地域資産価値の下落

につながります。

税制の限界を直視しつつ、都市再生政策や社会保障政策と連動させる必要があります。


結論

マンション長寿命化促進税制は、一定の行動変容を促す仕組みとして評価できます。
しかし、築古マンション問題は、修繕資金不足、所有者高齢化、合意形成困難という構造問題を抱えており、税制のみで解決できるものではありません。

税制は有効な政策手段の一つですが、万能ではありません。
EBPMの視点からは、「効果があるか」だけでなく、「何ができて何ができないか」を明確にすることが重要です。

築古マンション問題は、税制の限界を考える格好のテーマでもあります。
今後の政策議論は、減税の拡充ではなく、制度設計全体の再構築に向かうべき段階に来ているといえるでしょう。


参考

税のしるべ 2026年2月16日
国土交通省 住宅税制のEBPMに関する有識者会議資料
国土交通省 マンション管理適正化関連資料
令和7年度税制改正大綱

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