老朽化マンションの問題は、単なる「古い建物」の問題ではありません。
より深刻なのは、管理が機能しなくなる「管理不全マンション」の増加です。
- 修繕が行われない
- 管理費・積立金が滞納される
- 意思決定が止まる
こうした状態に陥ったマンションは、市場からも行政からも扱いが難しい存在になります。
2026年の制度改正は、この問題への対応を一歩進めるものです。
しかし同時に、制度の限界も浮き彫りになっています。
本稿では、管理不全マンションがどのように処理されるのか、その制度的枠組みを整理します。
管理不全とは何か
まず定義の確認です。
管理不全マンションとは、明確な法律用語ではありませんが、実務上は以下の状態を指します。
- 管理組合が機能していない
- 修繕計画が存在しない、または実行されていない
- 管理費・修繕積立金の滞納が多い
- 建物の安全性に問題がある
重要なのは、これは「物理的劣化」だけでなく
「ガバナンスの崩壊」
であるという点です。
従来制度の限界
これまでの制度では、管理不全マンションへの対応は極めて限定的でした。
理由はシンプルです。
マンションは
「私有財産の集合体」
だからです。
つまり
- 強制的に建て替えさせることができない
- 強制的に売却させることができない
- 行政が直接介入しにくい
この結果
「問題があると分かっていても放置される」
ケースが多発してきました。
2026年改正のポイント
今回の改正は、この停滞を打破するためのものです。
主なポイントは3つです。
① 再生手法の決議要件の緩和
- 建て替え・一括売却・大規模改修
→ 5分の4 → 条件付きで4分の3
② 行政の関与強化
- 管理計画の認定制度
- 助言・指導の強化
③ 管理の適正化の促進
- 管理不全の予防に重点
ただし重要なのは
「強制力は限定的」
という点です。
それでも“強制処理”は難しい理由
多くの人が誤解しがちな点です。
制度が整えば、問題マンションは解決するのか?
答えはNOです。
理由は以下の通りです。
① 所有権の壁
- 憲法上、強制処分は極めて限定的
② 費用負担の問題
- 建て替え:約2,000万円規模
- 売却後も追加負担
③ 合意形成の現実
- 高齢者が多い
- 意思決定が進まない
つまり
「制度で道は作れるが、実行は別問題」
です。
実務上の処理パターン
現実の現場では、管理不全マンションは次のいずれかのルートを辿ります。
① 再生成功型
- 建て替え・売却が成立
- 立地が良い場合に限定
② 部分的延命型
- 最低限の修繕
- 問題を先送り
③ 管理崩壊型
- 修繕されない
- 空室増加
- スラム化リスク
最も多いのは②です。
つまり
「完全な解決はされない」
ケースが大半です。
行政ができること/できないこと
行政の役割も整理しておく必要があります。
できること
- 助言・指導
- 情報提供
- 認定制度による誘導
できないこと
- 強制的な建て替え
- 強制的な売却
- 費用負担の肩代わり
つまり行政は
「後押しはできるが、解決はできない」
立場です。
今後の制度の方向性
今後の議論として考えられる方向性は以下です。
① 強制力のある制度の検討
- 公的関与の強化
- ただし私権制約とのバランスが課題
② 公的資金の関与
- 再生支援
- ただし財政負担の問題
③ 区分所有制度の見直し
- 合意要件のさらなる緩和
- 意思決定構造の改革
いずれも簡単ではありません。
この問題の本質
管理不全マンションの問題は
「制度の問題」ではありません。
本質は
- 所有者の高齢化
- 資金不足
- 合意形成の困難
という社会構造にあります。
つまり
「誰も決められない」
状態です。
制度はこれを完全には解決できません。
個人にとっての意味
この問題は、将来のリスクとして個人に直結します。
- 住んでいるマンションが機能不全になる
- 売却できない
- 修繕負担が急増する
さらに相続と絡むと
- 引き継ぎたくない資産
- しかし放棄しづらい資産
になります。
結論
管理不全マンションの問題は、制度改正だけで解決するものではありません。
むしろ今回の改正は、「解決の難しさ」を前提にした制度です。
今後は
- 再生できるマンション
- 延命するしかないマンション
- 崩壊していくマンション
の三極化が進みます。
そしてその分岐点は
- 管理
- 合意形成
- 資金
です。
マンションは「建物」ではなく「組織」です。
この認識を持たない限り、リスクは見えません。
参考
日本経済新聞(2026年3月22日 朝刊)
国土交通省 マンション政策関連資料