老後の住まいを考えるうえで見落としがちな視点が「地域差」です。
医療機関の数、介護サービス事業所の分布、交通手段、生活の利便性、住宅費の違い……。
住む地域によって、老後の暮らしやすさは大きく変わります。
近年、75歳以上の高齢者の都市部への移住が増えていますが、一方で「静かな地方で暮らしたい」という声も根強くあります。
本稿では、都市部と地方の“老後の暮らしの違い”を、医療・介護・生活・住まい・お金の視点から比較し、自分(または親)に合った地域の選び方を整理します。
1. 医療アクセスは「都市部が圧倒的に有利」
◆ 都市部
- 大病院・診療所・専門医が豊富
- 救急医療の体制が整っている
- 診療科の選択肢が多く、セカンドオピニオンも受けやすい
- 通院の移動が短く、公共交通機関も充実
例:札幌市は北海道内の病院(20床以上)の約4割が集中。
◆ 地方
- 病院まで車移動が必須
- 診療科が限られ、紹介状が必要な場合が多い
- 医師の不足が深刻化
- 救急搬送に時間がかかるケースも
医療ニーズが高まる後期高齢者ほど、都市部の利点が大きくなります。
2. 介護サービスの供給量も地域差が大きい
厚生労働省の調査では、全国1741市区町村のうち
- デイサービスなし:172自治体
- 訪問介護なし:115自治体
- 両方なし:58自治体
という地域差が明らかになっています。
◆ 都市部
- 介護事業者が多くサービスを確保しやすい
- ただし利用者増で「待ち」が発生する地域も
- ケアマネ不足が課題(例:さいたま市など)
◆ 地方
- 事業者そのものが少ない
- サービスの確保が難しい
- 要介護になった瞬間に“詰む”ケースも
介護の必要性が高い場合は、都市部の方が制度利用のしやすさが高い傾向です。
3. 住まいの費用は「地方の圧勝」
◆ 都市部(例:東京・横浜・札幌・福岡)
- 賃貸家賃:7〜15万円
- サ高住:月額10〜20万円
- 介護付ホーム:20〜35万円
◆ 地方(例:東北・九州・中四国の中規模都市)
- 賃貸家賃:4〜8万円
- サ高住:月額8〜15万円
- 高齢者向け住宅が比較的見つけやすい
地方は圧倒的に住居費が安く、年金生活にはありがたい環境です。
4. 生活の利便性:都市部が優勢だが、地方にも強み
◆ 都市部のメリット
- 交通手段が豊富(徒歩・電車・バス)
- 買い物・薬局・飲食店が近い
- 見守りサービスや配食サービスが多い
- 高齢者向け住宅が選びやすい
◆ 地方のメリット
- 自然が豊かで静かに暮らせる
- 広い住まい・庭つきがリーズナブル
- コミュニティが強く、地域活動が盛ん
- 食費や物価が安い地域も多い
都市部は便利、地方はゆったり。どちらを重視するかで選び方が変わります。
5. 老後の「安全性」は地域によって傾向が違う
◆ 都市部の安全性
- 医療・介護の担保がある
- 見守りサービスが豊富
- 住宅のバリアフリー化が進んでいる
- 夜間の治安は地域差あり
◆ 地方の安全性
- 交通手段が限られ、移動の負担が大きい
- 冬の雪かき・坂道など、身体への負担が大きい
- 一人暮らしの高齢者は孤立のリスク
- 高齢ドライバーの運転継続問題
雪国の場合、「冬をどう乗り切るか」が大問題になることもあります。
6. お金の視点で見る「都市部 vs 地方」
◆ 都市部は生活の固定費が高い
- 家賃
- 共益費
- 介護サービス費(人件費高騰)
- 外食費・交通費
◆ 地方は生活コストが低いが、医療・介護費が増えることも
- 移動にタクシーが必要
- 介護サービスが確保できず家族の負担増
- 特定の病院に通うための交通費がかかる
見かけの生活費が安くても、介護が必要になると逆転する場合があります。
7. 「都市部を選んだほうがよい人」と「地方を選んだほうがよい人」
◆ 都市部が向いている人
- 病気を抱えている
- 一人暮らしで見守りが必要
- 子どもが都市部に住んでいる
- 車の運転が難しくなってきた
- サービス付き住宅を検討している
- 介護が必要になる可能性が高い
◆ 地方が向いている人
- 元気で自立生活ができる
- 車の運転が続けられる
- 現在の生活圏に愛着がある
- 広い住まいで趣味を楽しみたい
- コミュニティが安定している
- 住居費を抑えてゆったり暮らしたい
親の健康状態・性格・価値観によって、選択は大きく変わります。
8. 地域選びで失敗しないためのポイント
- 医療圏の強さを調べる(病院の数・診療科・救急)
- 介護サービスが確保できる地域か確認
- 冬の雪・坂道・気候の影響を考える
- 移動手段(徒歩・バス・タクシー)を現地で確認
- 子どもがサポートしやすい距離感か
- 住宅費の総額(家賃・光熱費・管理費)を把握
- 地域のコミュニティの雰囲気を見る
- 将来の住み替えを前提にしておく(柔軟性を持つ)
最も大切なのは、
「いま」と「5年後」の状態を想定しながら選ぶことです。
結論
都市部と地方のどちらが「老後に向いているか」は、医療・介護・生活スタイル・費用・家族の距離といった複数の要素で決まります。
- 医療・介護の安心を優先するなら都市部
- 住居費の安さや自然環境を重視するなら地方
という傾向がありますが、最適解は人によって異なります。
老後の住まい選びで重要なのは、
本人の価値観(どんな暮らしをしたいか)と、現実的な生活条件(医療・介護・交通)を丁寧にすり合わせることです。
地域差を理解し、自分(または親)の状況に合った選択をすることで、安心して暮らせる老後の住まいが見えてきます。
出典
厚生労働省「介護事業所の分布」、総務省統計、日本経済新聞「75歳以上の都市移住増」関連報道 ほか
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
