第8回 老後の家計と資金計画 「住まい・医療・介護の総額」を見える化して安心の老後設計へ

FP
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人生100年時代を迎え、老後の家計は「長生きリスク」と表現されるほど複雑になりました。
生活費だけでなく、住み替え費用、医療費、介護費、住宅の維持費、終末期の支出など、高齢期には人生で最も多様な支出が重なります

しかし、多くの家庭では「医療と介護にどれくらいかかるのか」「どこまで備えれば安心なのか」が見えず、漠然とした不安を抱えたままというケースが少なくありません。

本稿では、老後の家計を「住まい・医療・介護」の3つの視点から整理し、生涯の資金をどのように計画すれば安心につながるのかを解説します。

1. 老後のお金は「生きる期間が読めない」ことが最大の課題

老後資金の計画で難しいのは、

  • 何歳まで生きるのか
  • 医療や介護が必要になる時期
  • 住まいを変えるかどうか

が人によって大きく違うことです。

厚生労働省の統計では、
女性の50%が90歳以上まで生存、25%は95歳以上まで生きる とされています。
この長さを前提にした資金計画が必要です。


2. 老後の支出は「基本生活費+医療+介護+住まい」の4本柱

(1)基本生活費

総務省「家計調査」では、65歳以上の単身世帯で
月14〜16万円程度(生活水準により変動)
夫婦では月22〜28万円程度が目安です。

(2)医療費

高齢期の医療費は増える傾向で、

  • 通院
  • 入院
  • 薬代
  • 検査

などが重なります。

ただし「高額療養費制度」により、一定額を超えた医療費は後から払い戻されます。

(3)介護費

要介護2の場合の自己負担は、
月1〜3万円程度(1〜3割負担)
です。
介護度が重くなると5〜10万円以上必要なケースがあります。

(4)住まい

持ち家か、賃貸か、施設かで大きく変わります。

  • 持ち家の場合:管理費・修繕費・固定資産税
  • 賃貸の場合:家賃(都市部なら8〜15万円)
  • 高齢者住宅:10〜20万円
  • 介護付きホーム:20〜35万円

老後の家計では「住まいの費用」が非常に大きなウェイトを占めます。


3. 医療・介護費の“生涯負担”の目安

厚生労働省と生命保険文化センターのデータを基にすると、
高齢者が人生で負担する医療費・介護費の自己負担は次のようになります。

◆ 医療費(自己負担)

  • 男性:約260万円
  • 女性:約300万円

◆ 介護費(自己負担)

平均すると
約70〜100万円
ですが、要介護度や期間によって大きく変動します。

介護施設に入居する場合は、
年間250〜400万円前後の支出になることもあります。


4. 住まいの違いによる「老後の総額モデル」を比較

ここでは典型的な3つのケースで“総額”を比較します。
(前提:90歳まで生涯、年金は平均的な水準)


【ケース1】持ち家で最期まで暮らす場合

  • 生活費:1,800万円〜
  • 医療費:260〜300万円
  • 介護費:70〜150万円
  • 住宅維持費(修繕・税):300〜600万円

合計:2,400〜3,000万円程度

※持ち家の老朽化(屋根や外壁の修繕)で金額が上がる可能性あり


【ケース2】都市部の賃貸へ住み替え(家賃10万円)

  • 生活費:1,800万円〜
  • 家賃:1,500万円(10万円×12カ月×12.5年換算)
  • 医療費:260〜300万円
  • 介護費:70〜150万円

合計:3,600〜4,000万円程度

※家賃の地域差が非常に大きい


【ケース3】サ高住に入居し、介護が必要になったら在宅介護を併用

  • サ高住月額:10〜20万円(生涯1,500〜3,000万円)
  • 医療費:260〜300万円
  • 介護費:100〜250万円
  • 引越し・初期費用:15〜60万円

合計:2,000〜3,600万円程度の幅

※サ高住の価格帯により大きく異なる


5. 老後資金は「現役期の生活水準+住まい方」で大きく変わる

年金の受給額は人によって差がありますが、年間150〜200万円が一般的です。
そのため、

  • 持ち家で暮らすか
  • 賃貸へ住み替えるか
  • 施設を利用するか

によって、老後資金の必要額が大きく変わります。

住まい方は老後資金計画の“核”であり、早めに方向性を定めることが重要です。


6. 老後の資金不足を防ぐ5つのポイント

(1)住まいの費用を最初に決める

老後資金の総額は住まいで大きく変わるため、「場所・家賃・介護体制」を最優先で検討します。

(2)医療費は“高額療養費制度”でカバー

医療破産を防ぐ仕組みがあるため、過度な心配は不要です。

(3)介護費は要介護度に応じて変動する

早めに住まいとサービスの計画を整えておくと安心。

(4)保険(医療・介護)は“過度に入りすぎない”

日本は公的保険が手厚いため、「必要な保障だけ」を見極めるのがコツです。

(5)長生きリスクに備えるには「分散した資産」が有効

預金・iDeCo・NISA・年金保険を組み合わせることで、取り崩しのバランスが整います。


7. 家族で共有しておきたい「老後資金の管理表」

以下をまとめておくと、非常に役立ちます。

  • 年金の受取額(月・年)
  • 資産一覧(預金・証券・保険・不動産)
  • 生活費の見積もり
  • 住まい方の方向性
  • 介護が必要になった時の希望
  • 医療・介護費の予備資金(生活費×1〜2年分が目安)
  • 緊急時の連絡先と役割分担

老後資金の計画は、家族の協力が安心につながります。


結論

老後の家計は「住まい」「医療」「介護」をセットで考えることが不可欠です。
これらは単独ではなく、お互いに密接に関わっています。

  • 住まいをどこにするか
  • 介護サービスをどう使うか
  • 医療費をどう見込むか

を整理すれば、老後に必要な資金の見通しは大きく改善します。

不安を漠然と抱えるのではなく、数字で「見える化」することで、老後に向けた前向きな準備が可能になります。家族と話し合いながら、安心の老後設計を進めていきましょう。


出典

厚生労働省「高齢者の医療・介護データ」、総務省「家計調査」、生命保険文化センター「介護費用に関する調査」ほか


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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