第8回 相続時精算課税ってなに?──“まとめて贈る”か“毎年贈る”か、贈与の選び方

税理士
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■ 1.贈与には2つの方法がある

これまで学んできたように、親や祖父母からお金をもらうと、
基本的には贈与税がかかります。

ただし、国は「生前のうちに財産を子や孫へ移していく」ことを応援しており、
そのために2つの贈与方法を用意しています。

贈与のしくみ名称特徴
少しずつ渡す暦年課税制度毎年110万円まで非課税
まとめて渡す相続時精算課税制度最大2,500万円まで非課税(相続時に精算)

どちらを使うかで、税金のかかり方も相続時の扱いも大きく変わります。


■ 2.① 暦年課税制度 ― 毎年コツコツ贈与する

一般的によく使われるのが、この「暦年課税制度」。

  • 1月1日〜12月31日までの1年間に、110万円まで非課税
  • それを超えた分に、10%〜55%の贈与税がかかる

つまり、毎年110万円ずつ渡せば、長い期間をかけてコツコツ財産を移せる仕組みです。

ただし、前回(第6回)で紹介したように、
2024年以降は「相続前7年以内の贈与」が相続財産に加算されるようになりました。

したがって、短期間の節税狙いでは効果が薄くなった点に注意が必要です。


■ 3.② 相続時精算課税制度 ― まとめて贈与しても大丈夫

もうひとつの方法が「相続時精算課税制度」です。

  • 2,500万円までは贈与税がかからない
  • そのかわり、相続のときに“まとめて清算”される

つまり、生前のうちに一気に財産を移しても、
相続時にその分を再計算して課税するという制度です。

例えば、
親が60歳のときに子へ2,000万円を贈与し、
その後に亡くなった場合――
相続税の計算では、その2,000万円を相続財産に“戻して”計算します。

💬「今のうちに子に渡して使ってもらいたい」
「住宅購入や起業の資金を支援したい」
そんな“前倒しの相続”をしたい人に向いています。


■ 4.2024年改正で「相続時精算課税」が使いやすく!

以前は、この制度を一度選ぶと暦年課税(110万円非課税)に戻せなかったため、
「使いにくい」と言われていました。

しかし2024年(令和6年)から、

✨ 相続時精算課税を選んでも、年間110万円までは非課税で贈与できるようになりました。

つまり、
これまでの「一括課税かゼロか」ではなく、
少額贈与との併用が可能になったのです。

これにより、
「教育資金や住宅資金を一気に贈りたいけれど、毎年少しずつも渡したい」
というケースにも柔軟に対応できるようになりました。


■ 5.「暦年課税」と「相続時精算課税」のちがい

比較項目暦年課税制度相続時精算課税制度
非課税枠年110万円通算2,500万円
対象者制限なし贈与者60歳以上の親→子(20歳以上)など
税金の扱い贈与のたびに完結相続時に清算
メリット毎年の贈与で節税まとめて資金移転できる
デメリット7年ルールで効果縮小相続時に再課税あり

■ 6.どちらを選ぶ?その判断ポイント

タイプ向いている人贈与の目的
暦年課税長期的にコツコツ渡したい人教育費や生活援助など継続支援
相続時精算課税今すぐまとまった援助をしたい人住宅購入・事業資金・資産移転

🎯 迷ったら、「何のために、いつ、誰に渡したいか」から考えるのがおすすめです。


■ 7.“節税”よりも“思いやり”の設計を

どちらの制度も、目的は「財産の円滑な移転」を支援すること。
節税のためだけでなく、
「子や孫の人生を支える」「家族の将来をつくる」ための制度と考えると、
より有意義に活用できます。

💬 相続・贈与の本質は、“お金をどう残すか”ではなく、
“想いをどうつなぐか”。


■ 8.まとめ:贈与の新時代へ

ポイント内容
改正の背景相続・贈与を一体化し、公平な課税へ
7年ルール相続前7年以内の贈与は相続財産に加算
新制度の柔軟性相続時精算課税+年110万円非課税の併用が可能
使い分けの鍵「贈与の目的」と「タイミング」を明確に

■ シリーズを終えて

この「はじめての相続と贈与入門」シリーズでは、
相続税・贈与税の基本から最新改正までを、
一般の方でも理解しやすい形で整理してきました。

次世代へ資産をつなぐことは、税金の話であると同時に、
家族の絆を考えることでもあります。
ぜひこれをきっかけに、早めの話し合いや専門家への相談をおすすめします。


参考資料

  • 東京税理士会「令和7年度第5回会員研修会資料(塩野入文雄講師)」
  • 財務省「令和5年度税制改正の大綱」
  • 国税庁「贈与税の非課税制度」・「相続時精算課税制度の改正概要」

という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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