■ 1.贈与には2つの方法がある
これまで学んできたように、親や祖父母からお金をもらうと、
基本的には贈与税がかかります。
ただし、国は「生前のうちに財産を子や孫へ移していく」ことを応援しており、
そのために2つの贈与方法を用意しています。
| 贈与のしくみ | 名称 | 特徴 |
|---|---|---|
| 少しずつ渡す | 暦年課税制度 | 毎年110万円まで非課税 |
| まとめて渡す | 相続時精算課税制度 | 最大2,500万円まで非課税(相続時に精算) |
どちらを使うかで、税金のかかり方も相続時の扱いも大きく変わります。
■ 2.① 暦年課税制度 ― 毎年コツコツ贈与する
一般的によく使われるのが、この「暦年課税制度」。
- 1月1日〜12月31日までの1年間に、110万円まで非課税
- それを超えた分に、10%〜55%の贈与税がかかる
つまり、毎年110万円ずつ渡せば、長い期間をかけてコツコツ財産を移せる仕組みです。
ただし、前回(第6回)で紹介したように、
2024年以降は「相続前7年以内の贈与」が相続財産に加算されるようになりました。
したがって、短期間の節税狙いでは効果が薄くなった点に注意が必要です。
■ 3.② 相続時精算課税制度 ― まとめて贈与しても大丈夫
もうひとつの方法が「相続時精算課税制度」です。
- 2,500万円までは贈与税がかからない
- そのかわり、相続のときに“まとめて清算”される
つまり、生前のうちに一気に財産を移しても、
相続時にその分を再計算して課税するという制度です。
例えば、
親が60歳のときに子へ2,000万円を贈与し、
その後に亡くなった場合――
相続税の計算では、その2,000万円を相続財産に“戻して”計算します。
💬「今のうちに子に渡して使ってもらいたい」
「住宅購入や起業の資金を支援したい」
そんな“前倒しの相続”をしたい人に向いています。
■ 4.2024年改正で「相続時精算課税」が使いやすく!
以前は、この制度を一度選ぶと暦年課税(110万円非課税)に戻せなかったため、
「使いにくい」と言われていました。
しかし2024年(令和6年)から、
✨ 相続時精算課税を選んでも、年間110万円までは非課税で贈与できるようになりました。
つまり、
これまでの「一括課税かゼロか」ではなく、
少額贈与との併用が可能になったのです。
これにより、
「教育資金や住宅資金を一気に贈りたいけれど、毎年少しずつも渡したい」
というケースにも柔軟に対応できるようになりました。
■ 5.「暦年課税」と「相続時精算課税」のちがい
| 比較項目 | 暦年課税制度 | 相続時精算課税制度 |
|---|---|---|
| 非課税枠 | 年110万円 | 通算2,500万円 |
| 対象者 | 制限なし | 贈与者60歳以上の親→子(20歳以上)など |
| 税金の扱い | 贈与のたびに完結 | 相続時に清算 |
| メリット | 毎年の贈与で節税 | まとめて資金移転できる |
| デメリット | 7年ルールで効果縮小 | 相続時に再課税あり |
■ 6.どちらを選ぶ?その判断ポイント
| タイプ | 向いている人 | 贈与の目的 |
|---|---|---|
| 暦年課税 | 長期的にコツコツ渡したい人 | 教育費や生活援助など継続支援 |
| 相続時精算課税 | 今すぐまとまった援助をしたい人 | 住宅購入・事業資金・資産移転 |
🎯 迷ったら、「何のために、いつ、誰に渡したいか」から考えるのがおすすめです。
■ 7.“節税”よりも“思いやり”の設計を
どちらの制度も、目的は「財産の円滑な移転」を支援すること。
節税のためだけでなく、
「子や孫の人生を支える」「家族の将来をつくる」ための制度と考えると、
より有意義に活用できます。
💬 相続・贈与の本質は、“お金をどう残すか”ではなく、
“想いをどうつなぐか”。
■ 8.まとめ:贈与の新時代へ
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| 改正の背景 | 相続・贈与を一体化し、公平な課税へ |
| 7年ルール | 相続前7年以内の贈与は相続財産に加算 |
| 新制度の柔軟性 | 相続時精算課税+年110万円非課税の併用が可能 |
| 使い分けの鍵 | 「贈与の目的」と「タイミング」を明確に |
■ シリーズを終えて
この「はじめての相続と贈与入門」シリーズでは、
相続税・贈与税の基本から最新改正までを、
一般の方でも理解しやすい形で整理してきました。
次世代へ資産をつなぐことは、税金の話であると同時に、
家族の絆を考えることでもあります。
ぜひこれをきっかけに、早めの話し合いや専門家への相談をおすすめします。
参考資料:
- 東京税理士会「令和7年度第5回会員研修会資料(塩野入文雄講師)」
- 財務省「令和5年度税制改正の大綱」
- 国税庁「贈与税の非課税制度」・「相続時精算課税制度の改正概要」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
