第8回 海外事例:米国・欧州の役員報酬はどう違うのか

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役員報酬は各国で大きく異なり、その設計思想には文化・経営観・市場環境の違いが反映されています。
日本ではガバナンス改革が進みつつあるものの、米国や欧州と比べるとまだ発展途上の面もあります。海外の制度を知ることで、日本企業がどこに改善余地を持ち、どの方向へ向かうべきかが見えてきます。
本稿では、米国・欧州の役員報酬の特徴と、日本企業が学べるポイントを整理します。

1. 米国の役員報酬 ―「高額・株式報酬中心」が特徴

米国は世界で最も株式報酬が発達している市場です。特にテック企業を中心に、役員報酬の大部分を株式報酬が占めています。

■ 特徴①:長期インセンティブ比率が圧倒的に高い

米国上場企業のCEO報酬は、
70〜80%以上が株式報酬(RSU・PSU・ストックオプション)
というケースが一般的です。

現金報酬(固定報酬・賞与)は少なく、企業価値向上の成果が直接報酬につながる仕組みになっています。

■ 特徴②:TSR(株主総利回り)を重視

株価上昇+配当の総合リターンで評価する指標です。
株主の実質的な利益に合わせた評価となり、資本市場との整合性が高いことが特徴です。

■ 特徴③:パフォーマンス株式(PSU)が主流

PSUは、業績達成度に応じて付与株数が増減する制度で、
ROIC・ROE・TSRなどの長期指標と連動します。

■ 特徴④:CEO市場が流動的

経営者が企業間を移動しやすく、優秀なCEOを獲得するために高額報酬が必要になる構造があります。


2. 欧州の役員報酬 ―「抑制的・ESG重視」が特徴

欧州は米国とは対照的に、報酬に対して慎重な文化を持っています。

■ 特徴①:報酬額は米国より大幅に低い

ヨーロッパは株主だけでなく、
従業員・社会・環境とのバランス
を重視する伝統があり、高額報酬への批判が強い傾向があります。

上場企業でもCEO報酬は米国の1/5〜1/10程度に収まることが多く、文化的・社会的背景が影響しています。

■ 特徴②:KPIにESG・非財務指標が組み込まれる

欧州の多くの企業では、長期インセンティブに以下のような非財務KPIを導入しています。

  • CO₂排出量削減
  • 労働安全
  • 多様性(D&I)
  • サプライチェーンの人権リスク
  • 社会的インパクト

サステナビリティを企業価値の中心に位置付けているため、ESG指標の比重が高くなっています。

■ 特徴③:株主による「Say on Pay」が厳格

株主総会で役員報酬の承認を得るプロセスが法制化され、否決される企業も少なくありません。

■ 特徴④:ストックオプションより株式付与型が主流

オプションは短期的な株価上昇を促すため、
欧州ではRSUやPSUが中心に採用されています。


3. 日本との違い ― 何が遅れているのか

海外の事例と比べると、日本には以下のような課題があります。

■ (1)長期インセンティブ比率が低い

日本企業の役員報酬は、現金報酬の比率が依然として高く、
欧米のような「株式報酬中心」の構造にはなっていません。

■ (2)KPIの開示が不十分

海外では、KPIと達成度合いを細かく開示しますが、日本では「総合的に判断」とするケースがまだ多い状況です。

■ (3)ESG指標の導入が遅れている

環境・人的資本など非財務指標を報酬に反映する企業は増えていますが、まだ限定的です。

■ (4)報酬委員会の実効性に差がある

社外取締役の専門性や独立性にばらつきがあり、制度が形式的に運用されているケースも見られます。


4. 日本企業が海外から学べるポイント

■ ①「価値創造の長期化」

米国のように長期インセンティブ比率を高めることで、
5〜10年の視点で企業価値を上げる経営行動が促されます。

■ ②「ESG・人的資本」の評価軸を組み込む

欧州のようにサステナビリティ指標を導入することで、社会的価値と企業価値を両立させる経営が可能になります。

■ ③ KPIを明確に開示し、評価プロセスを透明化

評価の透明性が高い企業は、市場から高く評価されます。

■ ④ 報酬委員会の実効性強化

社外取締役に人事・財務・投資の専門性を持つ人材を登用し、
報酬委員会を“戦略機能”へ進化させる必要があります。


結論

米国は「株式報酬中心で企業価値最大化」、
欧州は「抑制的でESG重視」、
日本はその中間に位置する特徴があります。

日本企業が今後目指すべき方向は、
米国の長期インセンティブの強さと、欧州のESG重視のバランスを組み合わせた報酬制度
ともいえるでしょう。

役員報酬は単なる給与制度ではなく、企業文化や戦略そのものを映す仕組みです。
海外の事例を知ることで、日本企業のガバナンス改革をさらに進める糸口が見えてきます。


出典

・海外企業の報酬制度開示資料(US・EU主要企業)
・日本経済新聞(米欧のガバナンス・報酬関連記事)
・コーポレートガバナンス・コード


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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