高齢の親と向き合うとき、多くの人が「どのタイミングで、どこまで踏み込んで話すべきか」を悩みます。相続、医療、介護、葬儀、財産管理——いずれも避けて通れないテーマですが、話題にしにくい分だけ、トラブルや後悔が起きやすいのも事実です。
終活とは、死後のことだけを準備するのではなく、
これからの人生を自分らしく、安心して暮らすための前向きな活動です。
本稿では、家族が自然に取り組みやすい「終活・相続準備」の進め方を整理し、押さえるべきポイントを解説します。
1. 終活は「死の準備」ではなく、「安心して生きる準備」
終活という言葉に抵抗を感じる親は多いです。
しかし、実態は以下のような“生活の整理”です。
- これからの暮らし方
- 医療や介護の希望
- お金の管理方法
- 身の回りの整理(もの・契約・デジタル資産)
- 亡くなった後の手続きの負担減
話し合いを始めると、むしろ親が安心し、生活の質が上がることが多くあります。
2. 終活の第一歩は「親の意思を知ること」
いきなり相続やお金の話をすると構えてしまうため、自然な入り方が大切です。
◆ 自然な切り出し方の例
- 「最近、住まいや健康のことで心配なことはない?」
- 「これからどんな生活をしたいと思ってる?」
- 「もし入院したら、どういう治療を希望する?」
- 「大事な書類はどこにあるかだけ教えておいてほしいな」
無理やり進めるよりも、「親の価値観や希望を知る」という姿勢で始めるとスムーズです。
3. 終活で整理しておきたい“3つの領域”
(1)暮らしの領域
- 住み替えの希望(住み慣れた家/都市部へ移住/子どもの近く など)
- 医療の希望(延命治療の考え方)
- 介護の希望(自宅/施設/子どもに負担はかけたくない等)
- 日常生活の安全(買い物、交通、見守り)
(2)お金・資産の領域
- 預貯金・年金
- 不動産
- 株式・投信・保険
- 借入金の有無
- 自動車・貴金属
- デジタルサービスの契約(スマホ・ネット銀行)
特に重要なのは、
「どこに何があるのか」を家族が把握しておくこと。
(3)死後の手続きの領域
- 葬儀の希望
- 墓地・納骨の考え方
- 遺品整理
- 相続人の名前と連絡先
- 遺言書の有無
これらを一度まとめておけば、家族の負担は大幅に軽減します。
4. 遺言書は“揉めないための保険”
遺言書があると、相続手続きはスムーズになります。
特に以下のケースでは、遺言書があるかどうかで大きく変わります。
- 子ども同士が遠方に住んでいる
- 不動産が1つだけ(分けにくい)
- 再婚・事実婚(相続関係が複雑)
- 家族関係に不安がある
- 介護を担う子どもが偏っている場合
◆ 遺言書の種類
- 自筆証書遺言(自分で書く。法務局で保管可)
- 公正証書遺言(公証役場で作成)
迷ったら 公正証書遺言 が最も確実で安心です。
5. 資産管理の体制づくり(家族信託・任意後見)
親の判断能力が落ちると、家族が代わりに手続きできないため、
- 銀行取引
- 不動産売買
- 介護施設入居契約
- 病院の支払い
などがスムーズに進まなくなることがあります。
◆ 家族で備えておきたい制度
- 家族信託:家族が柔軟に財産管理を担える
- 任意後見契約:元気なうちに「後見人」を指名
- 銀行の代理人制度:預金の出し入れが可能
これらは「早めに準備しておくほど選択肢が広がる」制度です。
6. 不動産は終活で最も揉めやすいテーマ
相続トラブルの原因の半数以上は不動産です。
特に以下のケースは要注意です。
- 実家が老朽化している
- 空き家になりそう
- 売却かそのままかで家族の意見が割れる
- 土地が広すぎて維持が大変
- 管理できる人がいない
早めに家族会議を開き、
「今後10年の住まい方」と「不動産の使い方」を整理しておくことが大切です。
7. 親・子ども双方にメリットがある“終活ノート”
今の終活は「エンディングノート」ではなく、
生活・医療・介護・お金の情報を家族で共有するためのノートとして使うケースが増えています。
◆ 入れておくべき情報
- 親のプロフィール
- 医療・介護の希望
- かかりつけ医
- 薬の情報
- 契約一覧(銀行・保険・スマホ・ネット)
- 重要書類の保管場所
- 資産の内容
- 葬儀・お墓の考え方
- 家族へのメッセージ
形は紙でもデジタルでも構いません。
大切なのは「親と子どもが一緒に整理すること」です。
8. 終活をスムーズに進めるための“話し方”
◆ 親が安心する伝え方のポイント
- 責める雰囲気にしない
- 「心配だから確認したい」と素直に伝える
- 否定せずに聞く
- 無理に急がせない
- 複数回に分けて話す
- 小さなテーマから始める
- 必要なら専門家(FP・税理士・司法書士等)を同席させる
終活は「家族の対話」がすべての出発点です。
結論
終活・相続準備は、親を追い込むものではなく、親自身が安心してこれからを生きるための支度です。
そして、家族が困らず、争わずに済むための知恵でもあります。
重要なのは、
- 親の意思を知り
- 必要な情報をまとめ
- 医療・介護・お金に備え
- 家族全員で共有すること
という3つのステップです。
親が元気なうちに、家族が前向きに話せる環境を整えるほど、本人にとっても家族にとっても安心な老後が実現できます。
出典
厚生労働省「人生会議(ACP)の推進」、内閣府「成年後見制度」、日本司法書士会連合会資料 ほか
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
