■「一度相続を終えたら安心」ではない理由
相続には「一回きり」では終わらない構造があります。
たとえば——
夫が亡くなったあと、妻が財産を引き継ぐ。
その後、妻が亡くなると、今度は子どもたちに相続が発生します。
この2回目の相続を、「二次相続」と呼びます。
一見単純に見えますが、実は二次相続こそ税金の落とし穴が潜んでいます。
一次相続では配偶者控除などの特例で税額が少なくても、
二次相続ではそれらの恩恵が使えず、税負担が一気に跳ね上がるケースがあるのです。
■一次相続と二次相続の違いを整理
| 項目 | 一次相続 | 二次相続 |
|---|---|---|
| 相続の対象 | 夫 → 妻・子ども | 妻 → 子ども |
| 主な控除 | 配偶者控除あり | 配偶者控除なし |
| 税負担 | 軽くなりやすい | 重くなりやすい |
| 調整できるタイミング | 遺産分割協議時 | 事前の準備が重要 |
たとえば、
- 一次相続:夫の遺産8,000万円 → 妻と子1人
→ 配偶者控除で非課税または軽減 - 二次相続:妻がそのまま8,000万円を引き継ぐ
→ 今度は配偶者がいないため全額課税対象に
結果、トータルの税負担が一次より大きくなるというわけです。
■「均等分割」が“最適”とは限らない
よくある誤解が、
「夫の財産は妻と子どもで半分ずつにすれば公平」という考え方。
しかし、妻が高齢であれば生活費や介護費が必要になりますし、
将来的には妻の財産も子どもへ移ることを踏まえて、
二次相続のシミュレーションをしておくことが大切です。
FP・税理士の立場から言えば、
「一次相続で妻に多く残しすぎない」「生前贈与を組み合わせる」
この2点を意識するだけで、二次相続の税負担は大きく違ってきます。
■家族信託とは?——“次の代”まで財産を守る仕組み
最近注目されているのが、家族信託(民事信託)です。
これは「信頼できる家族に、財産の管理や運用を託す契約」のこと。
信託銀行のような商業信託とは違い、家族間で結べる柔軟な制度です。
💡仕組みのイメージ
- 委託者(財産の持ち主):父
- 受託者(財産を管理する人):長男
- 受益者(利益を受ける人):母
たとえば、父が亡くなったあとも、
長男が母の生活費のために父の不動産を管理・売却できる。
母が亡くなったら、その財産を自動的に子どもたちに渡す——。
こうした“二段階の承継”を、遺言よりもスムーズに実現できるのが家族信託です。
■家族信託の3つのメリット
① 判断能力が衰えても財産を守れる
認知症になると、預金の引き出しや不動産の売却ができなくなります。
家族信託なら、受託者(家族)が代わりに管理・処分できるため、
成年後見制度のような硬直した手続きが不要です。
② 二次相続を見据えた承継が可能
「母の次は子どもへ」といった連続承継を契約で指定できます。
これは遺言書にはできない特徴。
家族の“未来設計”を制度として形にできます。
③ 相続発生後の揉め事を防止
誰が管理し、誰に渡すかを明確にできるため、
「誰が家を売るか」「預金をどう使うか」で揉めるリスクを回避できます。
■活用シーン別のおすすめ例
| 家族構成 | 家族信託の使い方 |
|---|---|
| 高齢の親+子ども2人 | 子の1人を受託者にして、親の財産を管理。もう1人の子にも利益を分配。 |
| 夫婦二人暮らし | 夫の判断力が衰えた際、妻が預金・不動産を管理できるよう信託設定。 |
| 不動産を複数持つ家庭 | 不動産を一括で子が管理。賃料を母の生活費に充てるよう指定。 |
■FP・税理士が伝えたい「二次相続・家族信託」3つの心得
1️⃣ 一次相続のうちから“次の相続”を意識する
遺産分割・配偶者控除の使い方で、将来の税負担が変わります。
2️⃣ 遺言書+家族信託の組み合わせが最強
遺言は「死後の指定」、信託は「生前からの管理」。
両方そろえておくと、認知症リスクや不動産処分の問題に強くなります。
3️⃣ “仕組みをつくる”ことが家族への思いやり
制度を整えることは、「家族を守る時間を未来にプレゼントする」こと。
■専門家の力を借りるタイミング
家族信託の契約は、司法書士・税理士・弁護士の連携が必要です。
不動産登記・税務・契約文案――いずれも専門分野が絡みます。
「信頼できる専門家チーム」に早めに相談することで、
家族の事情に合わせたオーダーメイドの信託設計が可能になります。
📚参考:
- 法務省「民事信託(家族信託)のガイドライン」
- 国税庁「相続税・贈与税における信託の取り扱い」
- 日本経済新聞「まさか私も相続税? 地価高騰、申告対象者10年で3倍弱に」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
