投資用不動産の相続税評価を巡る見直しは、節税スキームの抑制と公平性の回復を目的とした大きな方向転換です。
短期購入や小口化商品を活用した節税には厳しい制限がかかる一方、長期保有や自宅・事業用不動産など一般の相続には大きな影響が出ないよう配慮されています。
最終回の今回は、この見直しを踏まえて、これからの相続・資産承継をどのように考えていくべきか、実務的なポイントをまとめます。
1.「節税ありき」の相続対策は時代遅れに
これまで一部富裕層の間では、
- 相続直前の高額投資用不動産購入
- 不動産小口化商品への組み替え
- 路線価評価を利用した評価圧縮
といった“節税技法”が多用されていました。
しかし今回の見直しにより、これらの効果は大幅に減少します。
今後は、
「節税のために不動産を買う」ではなく、「資産全体の健全な運用・承継」を優先する時代
へと移行します。
2.長期保有・実需目的の不動産は従来どおり
見直しの対象は短期取得や節税利用が中心であり、次のような資産は引き続き安定的に取り扱われる見込みです。
- 自宅(居住用不動産)
- 実家や親族が住む家
- 長期保有の賃貸物件
- 小規模アパート・戸建賃貸
- 事業用不動産
- 小規模宅地等の特例対象
これらを保有している家庭では、過度に制度改正を恐れる必要はありません。
3.「購入タイミング」が相続の要リスクに
今後の実務で最も注意すべき点は、取得時期の影響が極めて大きくなるということです。
● 注意すべきパターン
- 被相続人の寿命が近いため、急いで不動産に替える
- 相続人の事情で相続分調整のために短期購入する
- 現金を高額不動産に替えて節税を狙う
これらは、購入価格ベース評価によって効果が薄れ、むしろ不利になる可能性さえあります。
相続が近づいている場合は、「短期での売買を避ける」という判断が重要になります。
4.不動産と金融資産の“バランス戦略”がより重要に
見直し後の相続・資産戦略では、以下のように「金融資産とのバランス」が重要になります。
- 現金:流動性が高く、相続準備に利用しやすい
- 株式・債券:運用しながら承継も可能
- 投資用不動産:長期で収益を得つつ承継
- 小口化商品:短期節税よりも運用商品として扱う
これからは「不動産ありき」の相続対策ではなく、
分散投資と承継設計を一体で考える方式 が主流になります。
5.家族単位での“資産台帳(バランスシート)”作成が有効
相続対策の基本は
「家族全体の資産状況を可視化すること」
です。
次のような台帳を作ると、見直し後の制度でも柔軟に対応できます。
- 不動産の一覧(購入時期・用途・評価額)
- 金融資産の一覧
- 借入金の状況
- 名義の確認
- 将来の収益予測
- 相続税の概算
相続発生前に家族で共有しておくことで、
「短期購入リスク」を避けるための判断が容易になります。
6.家族会議・遺言・家族信託は引き続き重要
投資用不動産の評価方法が変わっても、次の対策は変わらず重要です。
● 遺言書
分割紛争の防止に最も効果的。
● 家族信託
認知症対策・資産管理に極めて有効。
● 生前贈与(無理のない範囲で)
制度改正の流れを見ながら検討。
● 保険の活用
納税資金の確保に安定的なメリット。
見直し後は、こうした“制度本来の対策”が再び中心になります。
7.投資用不動産は「収益性」と「長期性」で選ぶ時代に
新制度では、短期の節税目的で購入するメリットがほぼなくなるため、不動産は本質で選ぶ必要があります。
- 長期で安定的に家賃が得られるか
- 入居率
- 修繕積立の適正さ
- 借入金の安全性
- 立地の将来性
- 承継後も維持できるか
これらが“相続税対策以上に”重要な判断軸となります。
結論
今回の投資用不動産の相続税評価見直しは、相続直前の短期購入による節税を封じ、公平性を高めるものです。
今後の相続対策は、節税手法に頼るのではなく、
- 長期的な資産形成
- 家族全体の財産管理
- 資産の見える化
- 遺言・家族信託などの本質的対策
- 金融資産と不動産のバランス
- 無理のない承継プラン
を中心に据えることが重要になります。
節税はあくまで結果であり、
“正しい資産管理を続けていたら自然と負担も適正化される”
という考え方がこれからのスタンダードになっていきます。
出典
・日本経済新聞(投資用不動産の相続税評価見直し報道)
・政府・与党 税制調査会資料
・国税庁 公表資料(財産評価、タワマン評価見直し等)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
