親の体調が急に悪化したり、介護が必要になったりすると、家族は短期間で多くの手続きを進める必要があります。しかし、医療・介護・行政手続きは複雑で専門用語も多く、慌てて調べながら進める家族が少なくありません。
本稿では、高齢の親に関して発生しやすい医療・介護の手続きを一つの流れで整理し、「困る前に備えておくべきこと」をわかりやすく解説します。
1. 親に何かあったときの「最初の一歩」
病気や転倒など、まず“医療”が先に必要となるケースが多く、その後に“介護”の手続きへ進む流れが一般的です。
まず確認すること
- かかりつけ医はどこか
- お薬手帳
- 健康保険証
- 介護保険証
- 緊急連絡先
- 現在の生活状況と症状
いざという時、これらがすぐ出せる状態にしておくのは、家族の負担軽減につながります。
2. 医療で最初に必要になる手続き
◆(1)情報共有
まず病院に以下を共有します。
- 本人の既往歴・服薬
- 主治医情報
- 介護保険の認定状況
- 家族の連絡先と来院可能時間
◆(2)入院・手術が必要な場合
病院から次の書類が渡されます。
- 入院保証書
- 手術同意書
- 医療費の説明書
- 退院調整担当者の連絡先
入院時は、早めに退院後の生活(自宅か施設か)について病院と共有しておくと、スムーズに進みます。
3. 要介護認定の手続き(市区町村)
親に介護が必要かもしれない場合、次の流れで進みます。
◆(1)申請
提出先:市区町村の介護保険課
必要書類:
- 介護保険被保険者証
- 本人確認書類
- 申請書
※家族が代行可能
◆(2)訪問調査
市の調査員が自宅または病院で本人の状態を確認。
◆(3)主治医意見書
病院の医師が心身の状況を評価。
◆(4)介護認定(要支援/要介護1〜5)
申請から30日前後で結果が届く。
4. ケアマネジャーとの契約(介護サービス利用の入口)
要支援の場合:地域包括支援センター
要介護の場合:居宅介護支援事業所(ケアマネ)
ケアマネとの初回面談で確認すること
- できること/できないこと
- 家族が担える範囲
- 医療ニーズ(通院頻度など)
- 今の住まいの安全性
- 予算(介護保険の自己負担1〜3割)
ケアマネが「ケアプラン」を作成し、必要な介護サービスが確定します。
5. 使える介護サービス(代表例)
◆ 訪問介護(ヘルパー)
買い物、掃除、入浴介助など。
◆ デイサービス
送迎付きで食事・入浴・機能訓練。
◆ 訪問看護
医師の指示のもと、看護師が訪問。
◆ 福祉用具レンタル
手すり、歩行器、介護ベッドなど。
◆ ショートステイ
一時的に施設で宿泊。
◆ 小規模多機能型居宅介護
通い・訪問・泊まりを一体で提供。
これらはケアマネのケアプランに基づき利用します。
6. 退院・施設入居に関する手続き
◆(1)退院調整
病院の「退院調整看護師」や「医療ソーシャルワーカー」が担当。
◆(2)自宅復帰の場合
- 手すり設置など住宅改修(介護保険の補助あり)
- 福祉用具レンタル
- 訪問介護・訪問看護の手配
◆(3)施設入居の場合
入居判断に必要な情報:
- 介護度
- 医療ニーズ
- 認知症の有無
- 家族の通いやすさ
- 費用(初期費用+月額)
提出書類:
- 健康診断書
- 介護保険証
- 診療情報提供書(紹介状)
- 本人確認書類
7. お金の手続き(自治体・年金・銀行)
◆ 医療費・介護費の支払い方法を決める
- 銀行口座の引落設定
- 家族が代理人になる場合の銀行手続き
◆ 高額療養費制度の利用
医療費が高額になると、後から払い戻し。
◆ 高額介護サービス費
介護保険で自己負担額が上限を超えた場合に払い戻し。
◆ 年金の住所変更・受取口座変更
住み替えの際に忘れやすいポイント。
8. 判断能力が低下した場合の手続き
急に認知症症状が出ると、家族が手続きできない事例が多発しています。
利用できる制度
- 銀行の代理人制度
- 任意後見契約(元気なうちに準備)
- 家族信託(財産管理を柔軟に)
- 成年後見制度(法定後見)
医療・介護と資産管理は密接に関連するため、早期検討が重要です。
9. 家族が事前に準備しておく「手続きノート」
以下の情報をノートやデジタルで共有しておくと、手続きが圧倒的に楽になります。
◆ 医療
- かかりつけ医
- 服薬状況
- 既往歴
- 医療機関の診察券
◆ 介護
- 介護保険証
- 過去のサービス利用歴
- 緊急連絡先
◆ お金・契約
- 銀行口座一覧
- 年金の受取先
- 保険証券
- 不動産情報
- 住所変更が必要な契約一覧
◆ 本人の希望
- 住みたい場所
- 介護の希望
- 延命治療の考え方
- 家族への伝言
結論
親の医療・介護の手続きは、病院・自治体・ケアマネ・介護事業者と多くの関係者が関わり、短期間に多数の判断を求められます。最も重要なのは、事前に情報を整理し、親の意思を家族が共有しておくことです。
元気なうちに準備しておくことで、いざという時に慌てず、より納得感のある選択ができます。家族全員が協力し合い、親の「これからの暮らし」を主体的に支えていくことが、安心につながります。
出典
厚生労働省「介護保険制度」、医療機関の退院支援資料、自治体の介護サービス説明資料 ほか
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
