■「実家をどうするか」問題は、誰の家にも訪れる
両親が亡くなった後に残る「実家」。
相続の場面で最も悩ましいテーマのひとつです。
「空き家のまま放置しているけれど、どうすべきか分からない」
「兄弟で話がまとまらない」
「相続税の支払いに充てるために売るしかないの?」
こうした相談は、税理士・FPの現場でも非常に多くなっています。
実家は思い出の詰まった場所であると同時に、相続税・維持費・登記・管理といった現実的な負担も伴います。
■相続後に選べる「3つの選択肢」
実家の扱いには、大きく次の3つの道があります。
1️⃣ 売却する
2️⃣ リフォームして住む
3️⃣ 賃貸に出す
それぞれに税務・感情・生活面のメリット・デメリットがあります。
順に見ていきましょう。
■① 売却する——最も現実的な選択
✅ メリット
- 現金化でき、相続税や修繕費の支払いに充てられる
- 管理の手間が不要になる
- 兄弟で分けやすい(分割しやすい)
⚠️ 注意点
- 売却益が出た場合は「譲渡所得税」が発生
- タイミング次第で「空き家譲渡特例」が使えるかどうかが分かれる
💡空き家譲渡特例(3,000万円控除)
被相続人(亡くなった方)が住んでいた家を、相続人が売却した場合、
一定の条件を満たすと最大3,000万円の譲渡所得控除が受けられます。
主な適用条件:
- 被相続人が一人暮らしで住んでいた家屋
- 相続開始から3年以内に売却
- 耐震基準を満たすか、解体して更地にして売る
たとえば、3,000万円で売却しても、取得費が2,000万円であれば、
通常は1,000万円が譲渡所得の課税対象。
しかし、この特例を使えばその1,000万円がまるごと控除され、非課税になります。
■② リフォームして住む——「思い出を引き継ぐ」選択
✅ メリット
- 家族の拠点を残せる
- 「小規模宅地等の特例」も引き続き活用可能(同居・継続居住)
- 一定の条件でリフォーム補助金や固定資産税の軽減が受けられる
⚠️ 注意点
- 築年数が古い場合は耐震補強が必要
- リフォーム費用が数百万円単位になることも
- 複数の相続人がいる場合、他の相続人への代償金(現金精算)が必要
🧾節税の観点から:
相続税評価は「居住継続」している限り変動が小さいため、
売却しない=課税リスクを増やさないという戦略にもなります。
■③ 賃貸に出す——“資産を活かす”発想
✅ メリット
- 維持費を家賃収入でまかなえる
- 相続財産を「収益資産」として活用できる
- 一定の条件で「貸付事業用宅地の特例(50%減)」も適用可
⚠️ 注意点
- 管理・修繕の手間が発生
- 家賃滞納・空室リスク
- 売却時に「事業用資産の買換特例」などの扱いが複雑になる
■税理士がよく受ける質問TOP3
| 質問 | 回答ポイント |
|---|---|
| Q1. 空き家をすぐ売らないと税金が高くなりますか? | 相続税の申告期限(10カ月以内)に売却する必要はないが、3年以内に売ると特例が使える可能性あり。 |
| Q2. 実家を兄弟で共有名義にしておいても大丈夫? | 将来の売却や修繕時に全員の同意が必要。トラブルの元になりやすく、単独名義+代償金清算が望ましい。 |
| Q3. 空き家を放置しておくとどうなりますか? | 固定資産税の「住宅用地軽減」が外れ、税負担が最大6倍に。倒壊リスク・近隣トラブルも。早めの対応が必要。 |
■実家問題は「お金」だけでなく「家族の関係」の問題
実家をどうするか――
これは税金や資産運用の問題であると同時に、家族の気持ちを整理するプロセスでもあります。
「思い出の家を残したい」
「兄弟で平等に分けたい」
「空き家にしておくのは心苦しい」
答えはひとつではありません。
だからこそ、早い段階で家族会議を開くことが最善の節税策でもあります。
■FP・税理士からのアドバイス
実家の扱いは、“感情”と“税務”が交錯する分野です。
売る・残す・貸す――どの選択にも正解はありません。
ただし共通して言えるのは、
「誰が管理するか」「いつ決断するか」を曖昧にしないこと。
その一点を決めておくだけで、将来のトラブルはぐっと減ります。
📚参考:
- 国土交通省「空き家対策ハンドブック」
- 国税庁「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」
- 総務省「固定資産税の住宅用地特例」
- 日本経済新聞「まさか私も相続税? 地価高騰、申告対象者10年で3倍弱に」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
