第5回 AIと税理士の仕事― 専門家に求められる“新しい価値”とは ―

効率化
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AIの急速な普及により、「税理士の仕事はAIに奪われるのではないか」という声を聞くことが増えました。確かに、領収書の読み取り、仕訳の自動化、誤りの検知など、従来は人が時間をかけて行っていた作業がAIによって劇的に効率化されつつあります。

しかし、税理士という専門職は、単に「入力する仕事」だけではありません。むしろ、AIによって単純作業が減ることで、税理士に求められる役割はこれまで以上に高度化していきます。

本稿では、AI時代における税理士の仕事がどのように変わるのか、そして専門家としてどんな価値が求められるようになるのかを、わかりやすく整理していきます。

1.AIが得意なのは「大量処理」「パターン認識」

まず理解しておきたいのは、AIが得意とする領域と不得意な領域の差です。

AIが得意なこと

  • 膨大なデータの分析
  • 取引パターンの検知
  • 書類の読み取り
  • 自動仕訳
  • 入力チェック
  • 数値の異常検知

こうした作業は、AIの導入によって大幅に効率化されます。

一方、AIが苦手なこと

  • 経営者の意図・背景の理解
  • 業界慣習や特殊事例の判断
  • 税務リスクの総合的判断
  • 個別の事情を踏まえた最適提案
  • 人間関係や対話を通じた問題解決
  • 新しい制度への応用的対応

AIは“過去データの延長線上にある判断”は得意ですが、“背景や意図を踏まえた総合判断”はまだまだ人間の領域です。


2.「入力の時代が終わる」=税理士の価値が減るわけではない

これまで税理士業務の大部分を占めていたのは、次のような作業でした。

  • 領収書や通帳の入力
  • 仕訳の整理
  • 証憑の突合
  • 年末調整・法定調書の作成
  • 申告書の数字確認

AIやクラウド会計により、これらの作業は大幅に自動化されます。

では、税理士の価値は減るのでしょうか?
実は逆です。

AIが標準化を進めれば進めるほど、税務と経営の「本質的な部分」に専門家の価値が集中していきます。


3.税理士が強化すべき“新しい価値”とは

AI時代の税理士に求められる役割は、大きく次の4つです。


① 税務リスクの管理

AIは誤りをチェックできますが、「リスクの重大性」や「税務署の判断傾向」までは評価できません。

税理士が担うべきポイントは次のとおりです。

  • 税務上のグレーゾーンの判断
  • 立入調査の可能性を踏まえた助言
  • 取引の背景と税務処理の整合性確認
  • 実務慣行・通達の理解と適用

“最後の砦”となるのは、やはり専門家の判断です。


② 経営判断の伴走者(財務コンサルティング)

AIが数字を作る時代だからこそ、数字を「どう使うか」が重要になります。

税理士が担う新たな価値は以下のような領域です。

  • 経営者の意思決定を支える分析
  • キャッシュフロー改善策の提案
  • 設備投資や融資の意思決定支援
  • 経営戦略に沿った節税・税務管理
  • 将来シミュレーション

経営者の不安や悩みに寄り添う「伴走型支援」は、AIには代替できない領域です。


③ AI・クラウド会計の実装支援

多くの中小企業は、AIの活用方法がわからず、クラウド会計も十分に使いこなせていません。

税理士は次のような役割を担うことができます。

  • 会計データ連携の設計
  • システム選定の助言
  • 電子帳簿保存法の運用ルール作り
  • 経理フローの再構築
  • AIの出力を前提とした業務手順の設計

いわば「AI導入のナビゲーター」としての役割が求められます。


④ 顧問先の“デジタル経理の教育者”

AI時代において重要になるのは、顧問先の基礎リテラシーです。

  • データを整える
  • 証憑を正しく保存する
  • デジタルで完結する経理フローに慣れる
  • ミスを減らす運用手順を共有する

これらを教育し、継続的にサポートすることこそ、税理士の価値になります。


4.AI時代でも、人は必ず必要になる理由

理由はシンプルです。

■「税務」と「人」は切り離せない

税金は、会社の“商売のやり方”や“お金の流れ”そのものと深く結び付いています。
そこには経営者の価値観、業界の慣習、商取引の背景、取引先との関係など、AIでは読み取れない情報が大量に含まれています。

税務とは「数字の世界」に見えますが、実際には「人の活動そのもの」を扱う領域です。

■AIは“道具”であり、判断者ではない

AIは一瞬で計算できますが、

  • この処理が税務調査で問題にならないか
  • 違法ではなくてもリスクが高くないか
  • もっと安全な方法はないか
    などの総合判断は、結局は人間が行います。

AI時代の税理士は、ただの「処理者」ではなく、「判断者」「アドバイザー」「コンサルタント」として進化していきます。


結論

AI時代の到来は、税理士の仕事を脅かすものではありません。むしろ、単純作業から解放され、より専門性の高い業務に集中できる環境が整いつつあります。

  • 入力・仕訳・証憑突合はAIが担当
  • 税務リスク管理・経営助言・AI導入支援は税理士の領域
  • 顧問先の「経理DX」の伴走役として価値が高まる
  • 税理士は“職人”から“戦略パートナー”へ進化

AIは税務業務を効率化し、税理士はより高度な価値提供に専念できる時代が始まっています。

次回はシリーズ最終回、
第6回「AI×税務の未来 ― 個人・企業・行政がどう変わるのか」
をお届けします。


出典

  • 税務行政のデジタル・トランスフォーメーション関連行政資料
  • 各種AI会計・OCRサービスの公表データ
  • 国税庁「電子帳簿保存法関連資料」

という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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