第5回 一般の相続にはどこまで影響するのか──自宅・長期保有不動産・中小不動産への実務的影響

FP
水色 シンプル イラスト ビジネス 解説 はてなブログアイキャッチのコピー - 1

投資用不動産の相続税見直しは、節税スキームに歯止めをかけることが主目的です。
そのため、一般家庭が保有する自宅や長期保有の不動産、収益目的で購入した中小規模の不動産にどの程度影響が及ぶのかは、多くの方が気になるポイントだと思います。

今回は、今回の見直しの「影響が出る部分」と「影響がほとんどない部分」を切り分け、一般の相続実務にとってどこが重要なのかを整理します。

1.今回の見直しの“本丸”はあくまで「節税目的の短期購入」

政府・与党の見直し案は、以下の点に強く焦点を当てています。

  • 相続直前に投資用不動産を購入
  • 数億円規模の不動産に組み替える
  • 路線価評価で大幅に価値が圧縮
  • 現金相続より税額が大幅に下がる

こうした事例を封じるための見直しであり、一般的な不動産保有者にまで広く影響を及ぼす意図はありません。


2.自宅(居住用不動産)への影響は基本的に“なし”

今回の議論は「投資用不動産」が中心です。

  • 自宅
  • 実家
  • 親が住んでいた家
  • 貸していない土地

これらは対象ではありません。

理由は次の通りです。

  1. 自宅は節税目的で短期購入されるものではない
  2. 利用制約がなく、評価が過度に歪む余地が少ない
  3. 小規模宅地等の特例など、既存制度との整合性を損ねる

そのため、一般家庭の相続で多い「自宅相続」には影響はほぼありません。


3.長期保有の投資用不動産も“原則対象外”

次に、収益目的で長年保有してきた不動産についても、影響は限定的です。

  • 購入から5年以上経過
  • 家賃収入を目的とした通常の投資
  • 長期保有で節税目的とは言い難いケース

これらは、従来どおり路線価ベースの評価で維持される見込みです。

見直しの目的が「短期の節税封じ」である以上、健全な長期投資まで評価方法を変更する必要性は低く、制度設計でも十分配慮されると考えられます。


4.中小規模の不動産(アパート・戸建賃貸など)への影響

多くの個人投資家が保有する以下の物件は、基本的に長期保有が前提であり、今回の見直しによる影響は基本的に軽微です。

  • 小規模アパート
  • 戸建賃貸
  • 小規模オフィス
  • 駐車場用地
  • 地方物件

ただし、次のケースは注意が必要です。

● 注意すべきケース

  • 購入から5年以内に相続発生
  • 路線価より実勢価格が極端に高いエリア
  • 利回りが高く、評価額が大きく圧縮されていた物件
  • 高額一棟マンションの短期購入

これらは、購入価格ベース評価により、評価額が従来より上がる可能性があります。


5.親子間の不動産共有や持分移転への影響

次のような相続準備のパターンにも影響の有無を分けておく必要があります。

● 影響が“ない”ケース

  • 長期保有の自宅の持分を子に移す
  • 10年以上保有している賃貸物件を共有に変更
  • 遺言や家族信託などでの承継準備

これらは今回の評価見直しに直接関係しません。

● 影響が“ある可能性”のあるケース

  • 相続前に投資用不動産を新規購入し、持分を調整
  • 小口化商品を相続直前に追加購入

評価額が上がるため、節税目的での短期的な持分調整は難しくなります。


6.小規模宅地等の特例はどうなるのか?

自宅や事業用の土地に適用できる小規模宅地等の特例(最大80%減額)は、今回の見直しとは別制度であり、変更は示されていません。

  • 自宅敷地
  • 親の住んでいた家
  • 事業用地
  • 貸付事業用(一定要件)

これらの特例は従来どおり利用できます。

今回の見直しは、あくまで「投資用不動産の評価方法」に限定されるため、既存の特例制度への影響はほぼありません。


7.一般の相続実務で最も重要なポイント

一般家庭で意識すべきことは、次の3点に要約できます。

(1)相続直前の“短期購入”は避ける

今回の見直しの最大のターゲットはこれです。

(2)長期保有の不動産は、従来どおり評価される見込み

必要以上に制度変更を恐れる必要はありません。

(3)投資目的の資産形成は、節税ではなく「収益性」が中心へ

相続対策よりも、長期の家計戦略として不動産をどう運用するかが重要になります。


結論

今回の評価見直しは、一般家庭に広く影響するものではありません。
特に、

  • 自宅
  • 長期保有の不動産
  • 小規模アパート等
  • 家族信託による承継
  • 小規模宅地等の特例

これらには原則として大きな影響はなく、従来通りの相続対策が可能です。

一方で、
相続直前の不動産購入や小口化商品の短期取得は評価額が上がり、節税効果がほぼなくなる
という点が制度改正の核心です。

次回の第6回では、今回の見直しを踏まえた
「これからの相続・資産承継対策の考え方」
をまとめ、実務的なアクションプランとして整理します。


出典

・日本経済新聞(投資用不動産の相続税評価見直し報道)
・政府・与党 税制調査会資料
・国税庁 公表資料(財産評価、タワマン評価見直し等)


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

タイトルとURLをコピーしました