第5回 うっかりで損しない!「小規模宅地特例」の落とし穴

税理士
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■ 1.制度を知っていても、使えないことがある?

「小規模宅地等の特例」を知っていれば安心…と思っていませんか?
実はこの特例、条件をひとつでも満たさないと適用できないため、
ちょっとした手続きミスやタイミングのずれで“宝の持ち腐れ”になることもあります。

塩野入講師も研修の中で、「制度の趣旨は理解していても、“実務要件の詰め”でつまずくケースが多い」と注意を促しています。


■ 2.よくある“落とし穴”5選

🕳️ 落とし穴① 分割協議がまとまらず「未分割」になった

小規模宅地特例は、誰がどの土地を相続するかが確定していなければ使えません。
つまり、相続税の申告期限(10か月以内)までに分割が終わっていないと、特例は適用外。

ただし救済策として「3年以内に分割する見込み書」を添付しておけば、
後日、分割確定後に更正の請求で特例を適用することができます。
(ただし3年を過ぎるとアウトです!)


🕳️ 落とし穴② 「家なき子特例」を誤解していた

第2回で紹介した「家なき子特例」は、同居していなくても使える便利な仕組み。
ですが、“持ち家があっても空き家ならOK”という誤解が多く、否認事例も少なくありません。

たとえ実際に住んでいなくても、

  • 自分や配偶者、親族名義の家を所有している
  • 過去3年以内にその家に住んでいた
    場合は、対象外となります。

“所有していない”だけでなく、“居住していない”という実態も必要です。


🕳️ 落とし穴③ 老人ホーム入所中の「非居住扱い」

被相続人が亡くなる前に老人ホームに入所していた場合、
「もう自宅に住んでいなかったからダメ」と諦める人が多いですが、
やむを得ない理由での入所なら「居住用」として認められることがあります。

ただし、入所中にその自宅を

  • 他人に貸した
  • 事務所や倉庫に転用した
    場合はNG。
    「維持管理のためにそのまま保有していたか」が判断の分かれ目です。

🕳️ 落とし穴④ 二世帯住宅の構造で結果が変わる

二世帯住宅では、玄関・台所などが共用か分離かで、特例の扱いが変わります。

  • 共用型(同じ建物の中で生活を共有)→「同居」として認められる可能性が高い
  • 完全分離型(玄関・台所が別)→「同居」ではなく、「家なき子特例」の判定対象

このように、建物の構造や登記の仕方で扱いが異なります。
リフォームの段階で“同居型”にしておけば、後々の相続で有利になるケースもあります。


🕳️ 落とし穴⑤ 申告書の添付書類が不十分

小規模宅地特例は、申告しないと自動では適用されません。
必要なのは、「小規模宅地等についての課税価格の計算明細書」の添付です。

この明細書には、

  • 対象地の地積・利用区分
  • 相続人の居住・事業実態
  • 申告期限までの所有継続状況
    などを細かく記載する必要があります。

記載漏れや添付忘れがあると、形式不備で否認されるおそれも。
税務署はこの部分をかなり厳密にチェックします。


■ 3.「適用できると思っていたのに…」という事例

塩野入講師が紹介する実例の中にも、次のようなケースがあります。

被相続人の子が「家なき子」として特例を申告したが、
実は配偶者名義で所有するマンションに住んでいたことが後日判明。
税務調査で否認され、追加納税となった。

このように、“形式”だけで判断せず、実際の生活実態まで確認されるのが最近の傾向です。
「住民票があった」「登記がこうなっている」だけでは足りず、
光熱費の支払い状況などからも“居住実態”を確認されることがあります。


■ 4.制度を使いこなすには「早めの相談」

この特例は、使い方次第で相続税が何百万円単位で軽くなる一方、
条件を少し外すと一円も使えないこともある「諸刃の剣」です。

相続が起きてから慌てるのではなく、

  • 遺産分割の方向性
  • 同居・別居の整理
  • 将来の老人ホーム入所の予定
    などを、生前のうちに税理士・FPと相談しておくのが理想です。

■ 5.まとめ:制度の“やさしさ”を活かすには準備が必要

ポイント内容
制度の目的自宅・事業用地の相続税負担を軽減
よくある落とし穴分割未確定、家なき子誤用、非居住扱い、書類不備
判定の鍵「居住の実態」と「申告時の確定」
事前準備遺産分割と相続人の居住関係を早めに整理
専門家の役割条件確認と証拠資料の整備サポート


参考資料
東京税理士会「令和7年度第5回会員研修会資料 小規模宅地等の課税特例(特定居住用宅地等)の基礎と実践に向けて」講師:塩野入文雄 氏(2025年5月8日)


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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