第4回:「もめない相続」への第一歩——遺言書と法務局保管制度を正しく使う

税理士
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■「うちは仲がいいから大丈夫」…本当にそうですか?

相続で一番多いトラブルは、実は“お金持ちの家”ではなく“普通の家”で起きています。
最高裁判所の統計によると、遺産分割をめぐる家庭裁判所の調停件数は、
近年約1万7千件。しかも
約8割が「遺産5,000万円以下」の家庭です。

つまり、「うちは財産が少ないから揉めない」というのは大きな誤解
理由はシンプルで、現金よりも不動産が多いからです。
実家や土地をどう分けるか——兄弟姉妹でも意見が食い違うのが現実です。


■「遺言書」は“争族”を防ぐ最強のツール

そんなトラブルを未然に防ぐのが「遺言書」です。
遺言があれば、亡くなった人の意思が明確に示され、相続手続きがスムーズに進む
逆に遺言がなければ、相続人全員の同意がないと財産の分け方を決められません。


■3つの遺言書の種類と特徴

種類特徴メリットデメリット
自筆証書遺言自分で全文・日付・署名を書く費用がかからず手軽書き間違い・紛失・偽造リスク
公正証書遺言公証人が作成し原本を保管法的に最も安全・確実公証役場で手続きが必要・費用発生
秘密証書遺言内容を秘密にしたまま公証人が存在を確認内容を伏せたい場合に有効手続きが複雑・使われる例は少ない

一般的には、公正証書遺言が最もトラブルを防げる形式です。
ただし、近年は「自筆証書遺言」もある制度の登場で安全性が大幅に向上しました。


■法務局の「自筆証書遺言保管制度」とは?

2020年7月に始まったこの制度は、
自分で書いた遺言書を法務局に預けて安全に保管できる仕組みです。

💡ポイント

  • 全国の法務局で保管可(本人が申請)
  • 原本は法務局が保管、データで検索可能
  • 家族が「遺言書があるか」を確認できる
  • 家庭裁判所での「検認」が不要

つまり、「家で保管していたら見つからなかった」「書き換えられてしまった」
といったトラブルを防げるわけです。


■実際の手続きの流れ(自筆証書遺言保管制度)

1️⃣ 遺言書を自筆で作成(パソコンや代筆は不可)
2️⃣ 予約のうえ法務局へ持参(本人確認が必要)
3️⃣ 内容チェック後、法務局が保管証を交付
4️⃣ 相続開始後、相続人が「遺言書情報証明書」を取得

💰手数料はわずか3,900円(1通あたり)
公証人に依頼するよりもはるかに低コストで済みます。


■どんな人におすすめ?

タイプおすすめ度理由
配偶者と子1人のシンプルな家族構成手軽で確実に保管できる
相続人が複数・不動産が複雑公正証書遺言の方が安全
相続人に疎遠な人・再婚家庭など紛争防止の効果が高い

遺言の内容を変えたくなった場合は、いつでも撤回・再保管が可能です。


■遺言書に盛り込みたい4つの基本項目

1️⃣ 相続人とそれぞれの分配割合
2️⃣ 相続させる財産の明細(不動産・預金・有価証券など)
3️⃣ 付言事項(感謝や想いを伝えるメッセージ)
4️⃣ 予備的条項(相続人が先に亡くなった場合などの想定)

✅ポイント:
特に「付言事項」は、家族への最後の手紙として重要。
「長年ありがとう」「仲良く暮らしてほしい」などの言葉があるだけで、
相続人同士の心情が大きく変わります。


■FP・税理士が見た“もめる家・もめない家”の違い

相続がもめる家には、共通点があります。
それは「意思を残さず、話し合いを先送りした家」です。

一方、もめない家は違います。

  • 家族で財産の概要を共有している
  • 親の意向が早くから伝えられている
  • 遺言書・エンディングノートがある

相続は、“資産の承継”というよりも“思いの継承”です。
親の意思が明確であれば、残された家族の心の整理も早く進みます。


■「遺言+家族会議」が最強の相続対策

法務局に保管するだけではなく、家族で共有する時間も大切です。
年末年始やお盆など、家族が集まるタイミングで——
「そろそろ遺言を考えているんだ」と軽く話すだけでも十分。

遺言は、“家族を守るための愛情表現”です。
税理士やFPの立場から見ても、早く作るほどトラブルは減る
「まだ早い」と思った瞬間こそ、始めどきです。


📚参考:

  • 法務省「自筆証書遺言書保管制度のご案内」
  • 国税庁「相続税のしくみ」
  • 日本経済新聞「まさか私も相続税? 地価高騰、申告対象者10年で3倍弱に」

という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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