投資用不動産の相続税評価見直しでは、賃貸マンションやオフィスビルだけでなく、近年人気が高まっている「不動産小口化商品」も対象となる見通しです。
少額から投資でき、相続の分割もしやすいことから、節税目的で利用されるケースが増えていました。
今回は、不動産小口化商品の評価方法がどのように変わるのか、従来の問題点と今後の方向性をわかりやすく整理します。
1.不動産小口化商品とは何か
不動産小口化商品とは、以下のような仕組みの投資商品を指します。
- 賃貸マンションやオフィスビルなどを多数の投資家で共有
- 保有割合に応じて賃料収入を受け取る
- 1口100万円〜500万円など、少額で購入できる
- 不動産会社・金融機関が商品として販売
株式のように流動性がありつつ、不動産の収益を享受できるため、投資と相続対策の両面で注目されてきました。
2.従来の相続税評価の問題点
小口化商品が節税目的で使われるようになった理由は、次の2点にあります。
(1)実勢価格より低く評価されやすかった
小口化商品は、投資家同士で取引が行われる場合、商品価格が柔軟に決まります。しかし、評価上は個々の持分が「不動産の共有持分」として扱われ、実勢価格より低く評価されることがありました。
(2)少額から分けやすく、相続人への分割も容易
例えば、1,000万円の現金をそのまま相続するよりも、1,000万円分の小口化商品を購入して相続した方が、評価額が低くなるケースが存在しました。
結果として、
「現金 → 小口化商品に組み替えることで税負担が下がる」
という利用のされ方が増えていました。
3.新ルールでは「取引事例に基づいた評価」に変更
政府・与党の見直し案では、不動産小口化商品について、次のような評価方式に切り替える方針が示されています。
● 購入時期にかかわらず、実際の取引価格などをもとに算出する。
従来のように路線価や共有持分評価を基礎にせず、
「市場でどれくらいの価格で売買されているか」
を重視する方向です。
つまり、小口化商品であっても、
- 実勢に近い価格
- 商品の収益性
- 運営会社の提示する基準価額
などが直接評価額に反映されます。
結果として、評価額は上昇するケースが多い と考えられ、節税効果は大幅に縮小する可能性があります。
4.具体的な評価イメージ
イメージとしては次のような流れです。
評価額=市場での取引価格(または基準価額)× 保有持分
従来は
- 路線価評価
- 持分割合による各種補正
などで実勢と離れた金額になることがありましたが、今後はこうした“乖離”がほぼなくなります。
5.なぜ小口化商品も見直し対象なのか
国税庁が強い問題意識を持った理由は、次の3点に集約されます。
(1)節税目的の利用が急増している
タワマン節税が封じられた後の“次の手法”として、利用が増えました。
(2)少額で短期間に購入でき、相続前に組み替えが容易
小口化商品は
- 少額で購入できる
- 商品数が豊富
- 相続直前の購入が容易
であるため、節税スキームとしての“使い勝手が良かった”。
(3)実勢価格との乖離が制度の趣旨に反していた
同じ価値の資産でも、
- 現金で持つ
- 小口化商品に変える
だけで税負担が変わるのは、制度の公平性を損ねます。
今回の見直しは、この「公平性の回復」が主目的です。
6.一般の相続に与える影響
不動産小口化商品は、次のような人に特に影響があります。
● 影響が大きい
- 相続直前に小口化商品を購入していた
- 現金を節税目的で小口化商品に組み替えていた
- 相続人間の分割をしやすくするために利用していた
評価額が実勢に近づくため、節税効果は大幅に減ります。
● 影響が小さい
- 投資目的で長期保有している
- 収益物件として運用している
- 相続対策より資産運用が主目的
制度の狙いは“短期購入による節税封じ”であり、健全な投資目的まで否定されているわけではありません。
結論
不動産小口化商品は、これまで相続税評価額が実勢より低くなるケースがあり、節税スキームとして広がりを見せていました。
しかし今後は、短期保有・長期保有にかかわらず、
「市場での実際の取引価格に基づいて評価する」
方式へと転換され、節税を目的とした活用は難しくなります。
これにより、現金を小口化商品へ組み替えるだけで相続税を減らすという手法は封じられ、制度はより公平な方向へと進みます。
次回の第5回では、
「一般の相続(自宅・長期保有不動産)にはどこまで影響するのか」
をテーマに、実際の生活者にとっての影響を丁寧に解説します。
出典
・日本経済新聞(不動産小口化商品の相続税評価見直しに関する報道)
・政府・与党 税制調査会資料
・国税庁 公表資料(財産評価、タワマン是正措置等)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
