■「贈与すれば安心」では済まない時代へ
「毎年110万円以内の贈与なら非課税だから安心」。
そんなふうに考えている人は今でも多いでしょう。
しかし――その“常識”は、もう古くなりつつあります。
2024年度の税制改正で、贈与税と相続税の一体化(通称:7年ルール)が始まりました。
目的は、「生前に財産を小分けに贈与して相続税を逃れる」行為を抑えること。
これにより、「もらったお金」が相続税に再計算される期間が延びたのです。
■暦年贈与の基本と「7年ルール」
これまでの制度では、亡くなる3年以内の贈与が相続財産に加算されていました。
改正後は、7年以内の贈与のうち3年以上前の4年間については、
「一部加算」という形で新ルールが適用されます。
🧾図解イメージ(簡略)
これまで:相続前3年以内 → 全額加算
これから:相続前7年以内 → 3年分+一部加算
つまり、長年コツコツ贈与しても、亡くなる時期によっては課税される可能性がある。
「毎年110万円ずつ贈与していたから安心」ではなく、時期の計画性が大切になりました。
■「年間110万円非課税」は“万能”ではない
「暦年贈与」の非課税枠(110万円)は、あくまで“贈与税”の話。
相続税との関係では、以下のような誤解が多く見られます。
| よくある誤解 | 実際のポイント |
|---|---|
| 110万円以内なら完全非課税 | 相続開始前7年以内の分は相続税に加算される場合あり |
| 申告しなければバレない | 預金記録・通帳振込はすべて税務署が把握可能 |
| 書面がなくても大丈夫 | 贈与契約書がなければ「名義預金」と判断されるリスクあり |
とくに注意したいのが名義預金問題。
「お孫さん名義の口座に毎年入金していた」ケースでも、
実質的に親が管理していれば、贈与とは認められません。
■特例贈与も「延長・縮小」で再設計が必要に
教育・住宅資金などの特例贈与は、2024年度改正で一部内容が変わりました。
以前よりも条件が厳しくなり、非課税枠も縮小しています。
🎓教育資金の一括贈与(信託型)
- 非課税限度額:1,500万円 → 1,000万円
- 期限:2026年3月末まで延長
- 対象年齢:30歳未満
- 条件:学校等に支払う「領収書の提出」が必要
✅ ポイント:
「子どもに現金を渡す」形ではなく、信託銀行や証券会社を通じた払い出し方式。
教育費以外への転用はNG。
🏠住宅取得等資金の贈与
- 省エネ住宅:非課税枠 1,000万円
- それ以外の住宅:500万円
- 対象:子や孫(20歳以上)
- 期限:2026年12月末まで延長
✅ ポイント:
新築だけでなく、中古住宅のリフォーム費用にも一部適用可能。
ただし、「贈与を受けた年の翌年3月15日までに入居」が条件。
■「もらう」より「使い道を決めて贈る」時代
贈与の考え方も、「現金を渡す」から「目的に沿って託す」へと変わっています。
たとえば——
- 「孫の教育資金として信託口座を設ける」
- 「子の住宅ローン返済をサポートする」
- 「家族信託で介護費用を確保する」
単に“減税”を狙うよりも、家族の生活や夢を支える贈与が評価される時代になりつつあります。
■FP・税理士が伝えたい「贈与の3つの鉄則」
① 証拠を残す(贈与契約書・振込履歴)
現金手渡しよりも銀行振込が望ましい。
「贈与契約書」を作成し、双方の意思確認を明文化しておくと安心です。
② 名義と管理を一致させる
お孫さん名義の預金でも、実際に祖父母が管理していれば「名義預金」とされ課税対象に。
口座の管理権限(通帳・印鑑)は本人に渡しておきましょう。
③ 計画的に進める(7年を意識)
「とりあえず今年110万円」ではなく、
7年スパンでトータル設計する贈与プランをFP・税理士に相談するのがベストです。
■「生前贈与」は“節税策”ではなく“家族設計”
生前贈与の本質は、「相続税を減らすこと」ではありません。
むしろ、家族の誰に・どのタイミングで・どんな目的で託すかを明確にすることにあります。
教育・住宅・介護——人生の節目を支える資金を、
「感謝」と「想い」を込めてつないでいく。
それこそが“生前贈与の真価”といえるでしょう。
📚参考資料:
- 財務省「令和7年度税制改正大綱」
- 国税庁「贈与税のしくみ」「相続税と贈与税の一体化」
- 日本経済新聞「まさか私も相続税? 地価高騰、申告対象者10年で3倍弱に」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
