第3回 AIが変える納税者サービス― チャットボットから自動作成支援へ、“相談対応”の未来 ―

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税務署と聞くと、「窓口は混んでいる」「電話がつながりにくい」という印象を持つ人も多いかもしれません。しかし近年は、納税者サービスの領域でもAI(人工知能)が急速に導入され、相談対応のスタイルが大きく変わり始めています。

国税庁のチャットボットやFAQ検索の強化、AIによる申告書作成支援など、「税務署に行かなくても解決できる」仕組みが広がりつつあります。本稿では、AIがどのように納税者サービスを変えているのかをわかりやすく解説していきます。

1.混雑する窓口と電話対応 ― 課題の中心は“情報の複雑さ”

税務署の混雑を生む最大の要因は、「制度の複雑さ」と「問い合わせの集中」です。

  • 年末調整、確定申告の時期に問い合わせが急増
  • 法改正が続き、最新情報を理解しにくい
  • インターネット検索では正誤が判別しづらい
  • 外国語での対応が難しい
  • ちょっとした質問でも窓口へ行く必要があった

このような状況に対し、国税庁はAIを活用して“いつでも・どこでも・正確に”税務情報を得られる仕組みづくりを進めています。

2.国税庁チャットボットの進化

現在、国税庁は複数のチャットボットを運用しており、特に確定申告期には24時間体制で稼働します。

AIチャットボットの特徴は次の通りです。

  • 24時間対応で混雑回避
  • よくある質問を自動で回答
  • 申告書の入力方法を案内
  • キーワード検索だけでなく、自然文で質問できる
  • 外国語対応にも拡大中

これにより、窓口や電話に頼らずとも、基本的な疑問はオンラインで解決できるようになりました。

3.AI音声対応の広がり ― 電話の世界でも進化

チャットボットと並行して、AIによる「音声自動応答」の導入も進んでいます。

  • AIが問い合わせ内容を自動で振り分ける
  • よくある質問は自動回答
  • 混雑時は折り返し予約機能を提供
  • 時間外の問い合わせも受け付け可能

特に電話が“苦手ではない世代”にとって、AI音声対応は利用のハードルが低く、今後さらに導入が広がると予想されます。

4.AIによる申告書作成支援 ― もっとも大きな変化

AIの導入がもっともインパクトを持つのは、「申告書作成支援」の領域です。

すでに次のような仕組みが動き始めています。

■(1)入力内容のチェック

  • 医療費控除の金額が不自然でないか
  • 収支内訳の内容と売上の整合性
  • ふるさと納税の控除額の計算

AIが「ミスの可能性がある箇所」を自動で指摘します。

■(2)自然言語での説明

「青色申告控除の受け方を教えて」
「この所得はどの欄に入力すれば良い?」

こうした対話形式で、自然な言葉を使いながら申告書を作成できるようになる未来はすぐそこです。

■(3)電子帳簿保存法との連携

領収書のAI読み取り(OCR)→自動仕訳→申告書へ反映
といった流れが一般化すれば、申告作業そのものが大幅に軽減されます。

5.高齢者・外国人向けサービスの改善

AI導入は、特にサポートが必要な層にも大きなメリットがあります。

高齢者向け

  • 音声対応で操作負担を軽減
  • 質問の要点を簡潔にまとめて回答
  • 自動で必要書類を案内

外国人向け

  • 自動翻訳で問い合わせ可能
  • 多言語のFAQが拡充
  • 納税手続きを英語・中国語で説明

AIの導入は“誰ひとり取り残さない税務サービス”の基盤となっています。

6.税理士にとっての意味 ― 業務が減るのではなく“変わる”

AIの導入は「税理士の仕事がなくなる」と言われがちですが、実際には次のように業務の質が変わっていきます。

  • 単純作業(入力・計算・検索)はAIが担当
  • 税理士はシミュレーション・相談・税務リスク管理に注力
  • “わかりやすさ”を提供する専門家としての役割が拡大
  • 行政ともデジタルで連携する時代へ

AIは税理士の仕事を奪うのではなく、「価値提供の領域を広げる」方向に働くと考えられます。


結論

AIの導入は、納税者にとっても税務署にとっても、そして税理士にとっても大きな変化をもたらしています。

  • チャットボットによる24時間対応
  • 電話のAI音声案内で混雑緩和
  • AIによる申告作成支援でミスを防止
  • 高齢者・外国人へのサポート拡充
  • 税理士はコンサルティング型へシフト

納税者サービスはこれから、AIによって「便利」「わかりやすい」「待たない」方向へ進化していきます。
税務行政のデジタル化はまだ始まったばかりですが、今後の数年で大きな変革が続くことは間違いありません。

次回は 第4回「AI×電子帳簿保存法 ― 証憑管理と自動チェックの未来」 をお届けします。


出典

  • 国税庁「税務行政のデジタル・トランスフォーメーション」関連資料
  • 国税庁チャットボット公開情報
  • 電子申告・電子帳簿保存法関連行政資料

という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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