非上場株の評価制度は、相続税の計算にとどまらず、事業承継や中小企業の資本政策に直結します。
特に「事業承継税制」や「納税猶予制度」との関係は密接であり、評価方法の選択次第で税負担や承継の可否が左右されることもあります。
本稿では、実務における評価制度と事業承継税制の関係、そして税理士・専門家が留意すべき論点を整理します。
事業承継税制との接点
事業承継税制は、一定の要件を満たす中小企業の非上場株を対象に、相続や贈与に伴う相続税・贈与税の納税を猶予する制度です。
2009年に創設され、2018年度の改正で大幅に拡充されました。
ただし、制度利用には厳格な要件と手続が設けられており、申請前提となる株価評価の正確性が前提条件となっています。
評価額が低く算定されることで納税猶予対象額が過少となれば、結果的に経営者の承継後に追加課税のリスクが生じます。
一方、過大に評価されれば、猶予対象額が膨らみ、制度利用後のリスクが高まることになります。
したがって、評価制度の適用選択と通達の理解は、単に相続税計算のためだけでなく、事業承継計画全体の成否に影響します。
類似業種比準方式の活用とリスク
実務では、税負担を抑えるために「類似業種比準方式」を選択するケースが多く見られます。
しかし、会計検査院の指摘にもあるように、この方式は上場企業の株価指標を基礎とするため、収益性が低い企業や資産を多く保有する会社では、実勢に比べて著しく低い評価額になることがあります。
国税庁はこの状況を問題視し、通達総則6項を根拠に評価を見直す事例を増やしています。
評価をめぐる紛争の多くは「通達どおりに評価したにもかかわらず、6項が適用された」という点にあります。
このため、実務上は評価計算の過程だけでなく、その前提条件の合理性や経営行為の意図を文書化しておくことが重要です。
納税猶予の制度と活用実態
中小企業庁の統計によれば、2024年度時点での事業承継税制の適用申請件数は累計で約2万件に達しましたが、対象となる中小企業全体から見れば依然として一部にとどまっています。
その理由として、
・株価評価の算定負担の重さ
・認定支援機関による事前確認の煩雑さ
・事後継続要件(5年または10年)の厳格さ
などが挙げられます。
一方で、非上場株の評価額が過小化している現状を踏まえると、税負担軽減と公平性の両立を図る制度設計が求められています。
事業承継税制と評価通達の両面を補完的に見直すことが必要です。
実務上の留意点
- 評価方式の選択を目的化しないこと
税負担軽減を目的に評価方式を操作すると、通達6項適用のリスクが高まります。
あくまで企業実態と整合する評価方式を選択することが重要です。 - 評価計算の根拠を明文化すること
算定過程や使用指標の根拠、前提条件を文書に残すことが、後日の税務調査対応で有効です。 - 承継後の経営計画と整合させること
承継後の資金繰りや配当方針を踏まえ、株式評価と納税猶予のバランスを取る設計が求められます。 - 総則6項のリスクを把握すること
6項は形式的な例外ではなく、「著しく不適当な評価」を是正する実務ツールです。
意図的な資本操作や配当設計は、事前に専門家による検証を受けるべきです。
結論
非上場株の評価制度は、相続税計算のための技術的手段にとどまりません。
中小企業の経営継続を左右する重要な制度基盤です。
事業承継税制の活用を検討する際は、単に「猶予を受けられるかどうか」ではなく、評価制度の透明性・持続可能性という観点から制度全体を理解することが必要です。
今後、国税当局による総則6項の運用拡大と評価基準の見直しが進む可能性があります。
税理士・専門家は、経営者と共に「通達の背景」「制度の目的」「実務のリスク」を総合的に判断する力が求められます。
出典
・日本経済新聞「非上場株の相続に課税」(2025年11月3日)
・日本経済新聞「税回避、通達にも要因」(2025年11月3日)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
