■ 1.「配偶者居住権」ってなに?
夫や妻のどちらかが亡くなったあと、残された配偶者が自宅にそのまま住み続けられるようにする仕組み――それが「配偶者居住権」です。
2020年(令和2年)に施行された新しい制度で、民法の改正により導入されました。
以前は、家の名義が亡くなった配偶者のものだった場合、相続の分け方次第では自宅を売らなければならないこともありました。
しかし、配偶者居住権を設定すれば、その家に住み続ける権利だけを相続でき、安心して生活を続けることができます。
■ 2.「権利」と「土地」は別のもの
少しややこしいのが、「家に住む権利」と「土地の所有権」が別になる点です。
たとえば、
- 家に住む権利(=配偶者居住権)は妻が相続
- 土地や建物の所有権は子どもが相続
というように分けられます。
このとき、配偶者居住権を持つ妻は土地を借りているような立場になります。
それでも、安心して住み続けられるように、税制上の配慮が用意されています。
■ 3.相続税でもきちんと守られている
相続税の計算では、「配偶者居住権」は土地の上にある権利として評価され、
小規模宅地等の特例(特定居住用宅地等)を適用することができます。
つまり、夫が亡くなったあと、妻がその家に住み続けるために配偶者居住権を得た場合でも、
「居住用の土地」として扱われ、最大80%の評価減が可能なのです。
また、土地を子どもが相続する場合でも、妻が配偶者居住権を持っていれば、
その分を除いた「残りの持分部分」で特例を計算するように調整されます。
(評価の割合は、土地全体の中で配偶者居住権が占める部分を按分して求めます。)
■ 4.制度が生まれた背景
配偶者居住権が導入されたのは、高齢化社会の現実的な課題に対応するためです。
日本では、平均寿命の延びとともに「夫が先に亡くなり、妻が長く一人暮らしをする」ケースが増えています。
それまでの制度では、
- 自宅が相続財産として分けられてしまう
- 相続税を払うために家を売ることになる
といった不安がありました。
配偶者居住権は、そうした「住まいの安心」を守るために生まれた制度です。
法律と税制の両面から、残された配偶者を支える新しい仕組みといえるでしょう。
■ 5.実際にどう決めるの?
配偶者居住権は、相続の話し合い(遺産分割協議)で決めます。
「この家には母が住み続ける」ということを、相続人全員が合意して登記するのが一般的です。
税務上は、配偶者居住権を設定した時点で、
- 居住権を持つ人(妻)
- 所有権を持つ人(子どもなど)
がそれぞれの財産として評価されます。
このとき、妻の居住権部分には「小規模宅地特例」を適用できるため、
家と土地の両方で相続税の負担を軽くできる場合があります。
■ 6.注意点とこれからの課題
配偶者居住権はとても有効な制度ですが、注意点もあります。
- 一度設定すると、途中で解除するには全員の合意が必要
- 建物をリフォーム・売却する際に制約がある
- 居住権を登記しておかないと第三者に対抗できない
また、税制上も「評価方法」や「他の特例との重複適用」が複雑で、専門家のサポートが欠かせません。
令和7年度以降の改正では、この配偶者居住権をめぐる評価や特例のあり方も、
より実情に合う形で見直される可能性があるとされています。
■ 7.まとめ:配偶者を守る“税の優しさ”
| 観点 | 内容 |
|---|---|
| 制度の目的 | 残された配偶者が自宅に安心して住み続けられるようにする |
| 法律上の仕組み | 「配偶者居住権」として権利を分けて相続 |
| 税制上の扱い | 居住権のある土地に小規模宅地特例(80%減)を適用可 |
| 実務の要点 | 相続時に協議と登記を行う、評価の按分に注意 |
| 今後の見直し | 高齢単身世帯の増加に合わせ、さらなる制度整備の可能性 |
参考資料:
東京税理士会「令和7年度第5回会員研修会資料 小規模宅地等の課税特例(特定居住用宅地等)の基礎と実践に向けて」講師:塩野入文雄 氏(2025年5月8日)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
