――人材不足と老朽システムが生む12兆円の経済損失リスク
AIを積極的に導入する中小企業の事例は前回ご紹介しました。では、なぜ今これほどAI活用が注目されているのでしょうか。その背景には、日本企業が抱える「2025年の崖」と呼ばれる深刻な課題があります。
これは単なるキャッチフレーズではなく、経済産業省が2018年に公式に警鐘を鳴らしたものです。老朽化したシステムとIT人材不足が重なり、日本経済全体に年間最大12兆円もの損失が生じると予測されたのです。
今回は、この「2025年の崖」の実態と、それに対してAIがどのような役割を果たそうとしているのかを掘り下げてみましょう。
「2025年の崖」とは何か
2018年、経産省が公表した報告書で初めて明確に示されたのが「2025年の崖」という表現です。その内容は次のようなものでした。
- 日本企業の 8割以上が老朽化したシステムを抱えている
- IT人材の高齢化・不足により更新が追いつかない
- 2025年以降、老朽システムが残存し続けることで 最大年間12兆円の経済損失 が発生
つまり、システムの維持に人もコストもかかる一方で、最新技術を活用できず、国際競争力を失っていくリスクがあるということです。
老朽システムの弊害
古いシステムを放置すると何が問題か。
- 保守に膨大なコストがかかる
- 若手技術者が古い言語を学びたがらないため人材が確保できない
- 新しいサービスや事業モデルをつくる際に 既存システムが足かせになる
こうした負の連鎖が、日本企業の競争力低下を招いているのです。
2025年の追跡調査――今も6割が旧式システム依存
「2025年の崖」の警鐘から7年後、経産省は2025年に追跡調査を行いました。その結果、状況は大きく改善していませんでした。
- 今も 6割の企業が旧式システムを利用中
- DX(デジタルトランスフォーメーション)への取り組みは一部の先進企業に偏っている
- 中堅・中小を含む大多数は、更新のコストや人材不足で手が回らない
つまり、「崖」は依然として目前に迫っているのです。
人材不足が加速するIT現場
IT人材の不足は、単なる量の問題ではありません。
- 古いシステムを知るベテランが定年を迎えて退職
- 若手は最新技術を志向し、古いシステムには関心を持たない
- 結果として、更新すべき時に誰もできないという事態が増えつつある
NTTドコモソリューションズも「システムの高度化に伴い開発リソース不足は深刻化している」と指摘しています。この現場の声は、日本全体で共通する危機感を象徴しています。
AIが果たす役割
このような背景から、AIの業務活用は「贅沢品」ではなく「必要不可欠な解決策」となりつつあります。
① 自動化による人材不足の補填
AIは定型的な開発や文書作成を自動化し、人材不足を補います。前回紹介したソプラの「CodeAGI」が、設計書からシステムを自動生成する例はその典型です。
② 文脈理解で古いシステムの“翻訳”
異なる表現を理解できるAIは、旧来システムと新システムをつなぐ役割も果たします。「在庫引当」と「在庫振替」の違いを吸収できるのは、その好例です。
③ 専門知識不要で導入ハードルを下げる
neoAIの「Chat」が示すように、AIは専門知識を持たない現場担当者でも使えるように進化しています。これは、DX人材が不足する企業にとって大きな救いとなります。
中小企業にとっての意味
大企業でさえ「代替できる工程はAIに任せる」としている状況です。では、中小企業にとってはどうでしょうか。
- 大企業のように潤沢な人材を抱えていない
- 古いシステムの更新コストも重くのしかかる
- だからこそ AIを活用した省人化・自動化の必要性はさらに高い
むしろ中小企業こそ、AIを使った「飛び級的な効率化」によって、大企業と同じ土俵で競争できる可能性があるのです。
まとめ
「2025年の崖」は、老朽システムと人材不足という二重の課題がもたらす深刻なリスクです。経産省の警告から7年経っても、依然として6割の企業が旧式システムに依存しています。
しかし、この危機があるからこそ、AIの活用が加速しています。
- AIは人材不足を補う自動化の力
- AIは旧来システムと新しい仕組みをつなぐ“翻訳者”
- AIは専門知識不要の仕組みを提供し、誰でも使える道具に進化
中小企業にとって、AIは「崖から落ちないためのロープ」であると同時に、「大企業と並び立つためのはしご」となるのです。
👉 次回(第3回)は、「専門知識不要の時代へ――AIが変える働き方と未来」をテーマに、これからの可能性を考察します。
📌 参考資料
「〈小さくても勝てる〉業務に合わせAIアレンジ 中小が機転、大企業で採用続々」
日本経済新聞(朝刊)2025年9月23日
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
