第2回:「小規模宅地等の特例」をどう使うか——“実家対策”の落とし穴と節税の鉄則

税理士
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■「相続税がかからない」と思っていたのに…

前回の記事では、「まさか私も相続税?」というテーマで、地価上昇や基礎控除の引き下げによって相続税の対象者が急増している現実を紹介しました。

実はその続きとして、多くの人が「うちは大丈夫」と思っている理由があります。
それが――「小規模宅地等の特例」です。

「居住用の土地は80%も評価が下がるんだから、相続税なんてかからないでしょ?」
……そう信じていた方の中には、申告の時に“使えなかった”という落とし穴にはまるケースが少なくありません。


■最大80%オフの「魔法の特例」

——小規模宅地等の特例とは?

この制度は、被相続人(亡くなった方)の自宅や事業用・貸付用の土地について、一定の要件を満たすと相続税評価額を大幅に減額できるというものです。

たとえば——

  • 自宅の土地(330㎡まで) → 80%減額
  • 事業用の土地 → 80%減額(400㎡まで)
  • 貸付用(アパート・駐車場など) → 50%減額(200㎡まで)

つまり、都内で評価額1億円の土地でも、要件を満たせば評価額は2,000万円に
これだけで税額は何百万円も減る、まさに「節税の切り札」です。


■でも実は、“使えない”ケースが多い

しかし、この「特例」には細かい条件があり、一つでも外れると適用されません
現場でよくあるのが次のようなパターンです。


❌ケース1:別居している子どもが相続する場合

被相続人(親)と同居していなかった子どもが相続する場合、
原則として居住用宅地の特例は使えません。

たとえ毎月仕送りをしていたとしても、「同居実態」がなければNG
同居とは「生活の本拠」が同じであることが前提だからです。


❌ケース2:二世帯住宅で区分登記されていた場合

同じ建物内に住んでいても、親世帯・子世帯で登記が分かれている(二世帯住宅)と、
それぞれ別の家とみなされる場合があります。

「構造上は1軒」「玄関が別でも家族でつながっている」など、
実態によって認められることもありますが、税務上は厳格に判断されます。


❌ケース3:介護施設入所後に「空き家」になっていた

近年、最も相談が多いのがこのケースです。
親が施設に入所して空き家になった実家。
この場合、入所前に「一時的な転居」とみなされるかどうかがポイント。

施設入所後も、

  • 自宅を処分せず維持していた
  • 帰宅の意思があった
    といった事情があれば、特例の対象と認められることがあります。

逆に、施設入所をきっかけに家を売却・貸出していた場合はNGです。


■特例を守るための「3つの備え」

① 名義・登記・住所を早めに整理する

実家の名義が「父のまま」「登記が昔のまま」というのはよくある話。
しかし相続が発生すると、誰がどの家に住んでいたかが厳密に問われます。
住民票や固定資産税の納付名義なども確認しておきましょう。


② 同居・転居のタイミングを意識する

親の介護や生活支援のために同居を検討している場合、
「いつから同居したか」が大きなポイントになります。
たとえば「亡くなる直前に同居したが、住所変更していなかった」場合など、
あとで争点になることがあります。


③ 空き家のままにしない

相続発生後、空き家を放置すると、固定資産税の住宅用軽減も失われ、
さらに相続税でも特例が使えないことがあります。
早めに売却・賃貸・活用の方針を決めておくことが大切です。


■ケーススタディで見る「適用の分かれ目」

ケース結果理由
長男が親と同居し、死亡後もその家に住み続けた✅ 特例適用同居親族として要件を満たす
長女が遠方に住み、相続後に実家を売却❌ 不適用同居実態がなく「家を引き継いでいない」
親が施設入所後も自宅を維持し、帰宅意向あり✅ 条件付きで適用一時的な転居とみなされる可能性あり

■FP・税理士の視点から——

「1年前からの準備」で結果は大きく変わる

私が相談を受けてきた中でも、「小規模宅地等の特例」をギリギリで逃したケースは少なくありません。
亡くなる1年前に住所を移していれば、数百万円単位の節税ができた例もあります。

この制度は、「亡くなってから慌てても間に合わない」代表的な分野。
親が元気なうちにこそ、同居・登記・名義の整備を進めることが節税への第一歩です。


■コラム:「空き家譲渡特例」との違いを整理

項目小規模宅地等の特例空き家譲渡特例
適用目的相続税を減らす譲渡所得税を減らす
タイミング相続税申告時売却時
対象居住用宅地被相続人が住んでいた家を相続後に売却
効果最大80%評価減最大3,000万円控除

混同しがちですが、「相続税」と「譲渡所得税」では別の制度です。
「まず特例を使って相続税を軽くし、その後空き家を売る」ケースもあります。


■まとめ:「実家の整理」は“家族の未来設計”でもある

「親の家をどうするか」は、節税の話にとどまりません。
そこには「誰が住み続けるのか」「どう引き継ぐのか」という、
家族の物語が関わっています。

特例を使うかどうかは、
制度だけでなく「家族の暮らし方」をどう設計するかで決まります。
“相続税対策”ではなく、“家族の未来対策”として考えていきましょう。


📚参考:

  • 国税庁「小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例」
  • 日本経済新聞(2025年10月)「まさか私も相続税? 地価高騰、申告対象者10年で3倍弱に」

という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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