非上場株の相続税評価は、上場株のように市場価格が存在しないため、通達に基づいて算出されます。
「財産評価基本通達」は時価を適正に反映させることを目的としており、評価方法は一定の合理性をもって設計されています。
しかし、その制度設計の中には、事業承継を促す政策目的や中小企業の負担軽減といった要素も組み込まれており、近年はその点が公平性の議論を呼んでいます。
本稿では、非上場株の評価制度の仕組みと課題を整理します。
非上場株の評価方式の基本構造
財産評価基本通達において、非上場株の評価は主に次の三つの方式に分類されています。
- 類似業種比準方式:
類似した上場企業の株価をもとに評価する方法です。株価指標(株価収益率・配当率・純資産倍率)を用い、評価対象会社の指標を比較して算出します。
「収益性」「配当」「純資産」の3要素を加重平均して求める仕組みです。 - 純資産価額方式:
会社の資産・負債を時価評価したうえで、差額である純資産を基礎に評価する方法です。資産構成や含み益を反映しやすく、資産保有会社に適しています。 - 併用方式:
事業内容や規模などを考慮し、類似業種比準方式と純資産価額方式を一定の比率で組み合わせる方法です。
この三方式の選択は、会社規模(大会社・中会社・小会社)や事業の性質によって決まります。
大会社では比準方式、小会社では純資産価額方式、中会社では併用方式が原則となっています。
また、評価上は上場株価の変動に配慮して、株価に「0.7の斟酌率」を乗じて評価する仕組みが導入されています。
制度が抱える根本的課題
現行の評価制度には、次のような構造的な課題があります。
(1)時価との乖離
非上場株は取引市場が存在しないため、通達上の算式に頼らざるを得ません。
しかし、通達による評価は企業の実勢価値を反映しきれず、場合によっては市場価値より大幅に低い評価となることがあります。
特に、収益性や配当が低い企業では、比準方式を用いた評価額が過小になる傾向があります。
この乖離が、相続税の課税ベースを歪める原因になっていると指摘されています。
(2)政策目的の混在
本来、財産評価の目的は「時価の適正反映」にあります。
ところが、事業承継を円滑化するために税負担を軽減するという政策目的が通達の設計に組み込まれてきた経緯があり、
その結果、「政策目的を優先するあまり、評価の中立性が損なわれている」との批判も出ています。
(3)租税回避行為への対応困難
非上場株の評価においては、相続直前に増資や配当を行うことで評価額を下げることが可能です。
通達どおりに評価すると、課税額が極端に低くなるケースもあります。
このような事例に対して、国税庁は例外規定である総則6項を適用して是正していますが、6項の運用が増えること自体が制度の限界を示しています。
会計検査院の指摘
会計検査院は2024年11月に公表した報告で、「類似業種比準方式による価額は、他の方式に比べて著しく低く、公平性が確保されているとはいえない」と指摘しました。
これは、評価制度そのものが時価の反映よりも政策目的に偏りつつあることを示しています。
さらに、国税当局の「伝家の宝刀」とされる総則6項の適用件数が増加している現状は、通達の限界を象徴するものだといえます。
結論
非上場株の評価制度は、本来「時価を適正に反映させる」ことを目的としてきました。
しかし、政策的要素を含めた制度運用が続いた結果、
・時価との乖離
・公平性の低下
・例外規定への依存
という課題を抱えるようになっています。
今後は、制度の透明性と一貫性を高める方向で見直しが必要です。
税制の公平性を確保するためにも、「政策誘導型の評価」から「市場実勢反映型の評価」へと軸足を移すことが求められます。
出典
・日本経済新聞「非上場株の相続に課税」(2025年11月3日)
・日本経済新聞「税回避、通達にも要因」(2025年11月3日)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
