前回は「確定拠出年金(DC)は放置が危険」というテーマで、基本とチェックの大切さをお伝えしました。
では、実際にどのように運用すれば長期的に安定した成果が得られるのでしょうか?
答えのひとつが「分散投資」と「リバランス」です。投資の世界でよく耳にする言葉ですが、実践している人は意外と少ないのが現実。今回は、確定拠出年金の運用における分散投資とリバランスの考え方を、具体的な事例を交えて解説します。
なぜ分散投資が必要か
投資の大原則は「卵を一つのカゴに盛るな」です。
1つの資産に集中すると、その資産が大きく値下がりしたときに、全体が大打撃を受けてしまいます。
例えば、国内株式だけに投資していたとします。国内景気の悪化や円高の影響で株価が急落すれば、年金資産も大幅に減ってしまいます。ところが、外国株式や債券も組み合わせておけば、ある資産が下がっても他の資産が補う効果が期待できます。
分散投資には主に次のような軸があります。
- 地域の分散:日本・先進国・新興国など
- 資産クラスの分散:株式・債券・不動産(REIT)・コモディティなど
- 通貨の分散:円・ドル・ユーロなど
確定拠出年金で選べる商品は限られますが、その中でも国内株・外国株・国内債券・外国債券を組み合わせるのが基本となります。
リバランスとは何か
せっかく分散投資をしても、その後の値動きによって資産配分が崩れてしまうことがあります。これを修正する作業が「リバランス」です。
例えば、当初は以下のように均等に投資したとします。
- 国内株式:25%
- 外国株式:25%
- 国内債券:25%
- 外国債券:25%
その後、株式市場が好調で国内株・外国株が大きく値上がりし、それぞれの比率が30〜40%に膨らんだとします。見た目には資産が増えて喜ばしいことですが、リスクが株式に偏っている状態になっています。
ここでリバランスを行い、株式の一部を売却して債券を買い増し、再び25%ずつに戻すのです。これにより、
- 値上がりした資産の利益を確定
- 全体のリスクを元の水準に調整
できるというメリットがあります。
リバランスがもたらす安定効果
「上がった株を売るなんてもったいない」と思うかもしれません。しかし、リバランスには以下の効果があります。
- 利益確定の仕組み化
感情に左右されず、ルールに従って利益を確定できる。 - リスクコントロール
偏った資産配分を修正することで、相場急変時のダメージを抑える。 - 長期的な安定運用
上がり過ぎた資産を売って下がった資産を買う=「安く買って高く売る」を自然に実践できる。
実際、長期の資産運用においては、リバランスを定期的に行った方が安定した成果を残すという研究結果もあります。
確定拠出年金ならではのメリット
通常の投資信託を売却すると、利益に対して約20%の税金がかかります。しかし、確定拠出年金で行うリバランス(スイッチング)には税金がかかりません。
つまり、
- 売却益に課税されない
- 手数料も基本的に無料(※一部商品に信託財産留保額がある場合は要注意)
という優れた仕組みになっています。
DCの「スイッチング」を活用することで、非課税でリバランスできるのは大きな強みです。
リバランスのタイミング
では、いつリバランスすればいいのでしょうか?
おすすめは次の2つのアプローチです。
- 定期的に行う方法
- 年1回など、あらかじめ決めた時期に実施する
- 忙しくても忘れにくい
- 乖離幅で判断する方法
- 例えば、配分が5%以上崩れたらリバランス
- より機動的に対応できる
どちらでも構いませんが、重要なのは「基準を決めて続けること」です。
リバランスを習慣化するコツ
- カレンダーに記入:年1回、誕生日や年末など、忘れにくい日をリバランスの日に設定。
- 家計簿アプリと連携:資産全体を見える化して点検。
- ライフイベントの節目で確認:結婚、転職、子どもの進学など大きな変化があったときに見直す。
ありがちな失敗と注意点
- 相場に振り回される
株価急落で慌てて売却→その後の回復を逃すケースが多い。リバランスは感情に左右されないルールが大事。 - リスクを取りすぎる
株式の比率が膨らんだまま放置→退職直前に大幅下落で取り返せない損失になるリスク。 - やりすぎる
頻繁にスイッチングしても成果は安定しない。かえって取引コストや手間が増えるだけ。
まとめ
- 分散投資は「卵を一つのカゴに盛らない」ための基本。
- リバランスは資産配分を元に戻す調整で、利益確定とリスク管理に役立つ。
- 確定拠出年金なら税金がかからないメリットがある。
- 年1回の定期点検、または乖離幅を基準にリバランスを習慣化する。
確定拠出年金は、長期でコツコツと育てていく資産です。短期的な値動きに一喜一憂するのではなく、ルールに基づいたリバランスで「安定した運用成績」を目指しましょう。
👉 次回(第3回)は、**「DCの強み『スイッチング』と『配分変更』活用法」**について詳しく解説します。
(参考 2025年9月13日付日経新聞朝刊)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
