政府・与党が検討している新たな相続税評価ルールの柱が「購入価格ベース評価」です。
これまで相続税評価は路線価や固定資産税評価額を用いるのが一般的でしたが、相続直前に購入した投資用不動産については、取得価格に近い金額で評価する方向が示されています。
今回は、この「購入価格ベース評価」とは何か、その計算イメージや、どのようなケースで影響が生じるのかを丁寧に解説します。
1.新ルールの対象は「短期の購入」
政府・与党が検討している案では、次のような投資用不動産が主な対象となります。
- 相続発生前に購入した賃貸マンション、オフィスビル等
- 特に購入後5年以内に相続が発生した場合を中心に議論
- 実勢価格に比べて路線価評価との乖離が大きい物件
長期保有の物件や自宅などは、現時点では大きな変更の対象外とされる見通しです。
2.「購入価格ベース評価」とは、実勢価格に近づける仕組み
新ルールの考え方はシンプルです。
相続直前に購入した不動産は、路線価ではなく “購入時の価格” を基準に評価する。
そのうえで、次の調整が入ります。
- 購入価格を基準額とする
- 購入から相続までの地価の上げ下げを反映する
- そこから約2割低く見積もる(減額補正)
最終的に算出される評価額は、現行ルールよりも実勢価格に近づくことになります。
3.現行ルールと何が違うのか
現行の相続税評価では、以下のような大きなギャップが生まれることがあります。
- 実勢価格:2億円
- 路線価評価:1億2,000万円
- 賃貸用評価減:さらに減少
このように「実勢2億円の資産なのに、相続税評価では1億円前後」というケースが起きやすく、節税目的で利用されることがありました。
一方、新ルールでは次のように変わります。
- 購入価格:2億円
- 地価補正:±(地域による)
- 2割減:−4,000万円
→ 評価額:1億6,000万円前後
つまり、現行の1億2,000万円よりも評価額が高くなり、節税効果は小さくなります。
4.なぜ2割減の補正が入るのか
政府・与党の議論では「市場価格をそのまま相続税評価に使うべきではない」という考えが示されています。
理由は次の2点です。
- 不動産は相続上、利用の制約が多い(借主の存在など)
- 市場価格は短期で変動し、評価額としては過度に高くなる可能性がある
そのため、
「購入価格 -(約20%減額)」
という形で市場価格を適度に補正し、公平性と安定性の両方を確保しようとしています。
5.評価額の算定イメージ
概念的な計算イメージは次のとおりです。
評価額 = 購入価格 × 地価変動率 ×(80%前後)
※具体的な係数は今後の税制改正大綱で決定されます。
※購入額の正確性を担保するため、売買契約書や領収書の提出が求められる可能性があります。
6.どのようなケースで影響が大きいのか
影響を受けやすいケースは次のとおりです。
(1)相続直前に高額不動産を購入するケース
相続直前に2〜3億円の投資用マンションを購入する「短期節税スキーム」は実質的に封じられます。
(2)賃貸用マンション・一棟ものの購入
借主がいることで評価額が下がりやすいタイプの不動産は、実勢との差が縮まりやすくなります。
(3)市場価格に比べて路線価が著しく低いエリア
都市部や人気エリアで、実勢と路線価の乖離が大きい地域は影響が大きく出る可能性があります。
7.逆に影響が小さいケース
次のケースは、現時点で大きな影響は想定されません。
- 不動産を長期保有している
- 収益目的で購入し、節税目的ではない
- 自宅・実家など居住用不動産が中心
- 相続から遠いタイミングの保有(購入から10年以上など)
制度の狙いは「節税目的の短期取得」に絞られています。
結論
「購入価格ベース評価」は、投資用不動産の相続税評価をより実勢価格に近づける仕組みです。
相続直前の不動産購入によって評価額を大きく下げる手法は今後困難になります。
このルールは、節税スキームを抑制し税負担の公平性を回復する一方、
長期保有や居住用不動産には大きな影響が出ないよう配慮されています。
次回の第3回では、焦点となっている
「購入から5年以内の相続」の具体的な扱い
について解説します。
出典
・日本経済新聞(投資用不動産の相続税見直し報道)
・政府・与党 税制調査会資料
・国税庁 公表資料(相続税評価、タワマン評価見直し)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
