■ 1.“家なき子特例”とは?
── 非同居でも使える、もうひとつの救済措置
小規模宅地等の特例の中で、最も誤解が多いのが「家なき子特例」です。
これは、被相続人と同居していなかった親族でも、一定の条件を満たせば「特定居住用宅地等」として評価減(最大80%)が受けられるという仕組みです。
ポイントは、
「同居していない=アウト」ではなく、「持ち家がない=セーフ」になり得ること。
つまり、被相続人の自宅に住んでいなかった相続人でも、自分や配偶者・親族名義の家に過去3年以内住んでいなければ、特例が使える場合があります。
この“持ち家のない相続人”が俗に「家なき子」と呼ばれるのです。
■ 2.「家がある=ダメ」ではない?
── 居住の実態と名義の両面で判断
誤解されやすいのは、「持ち家がある人はすべてNG」という早合点です。
しかし、実際の判断はもう少し複雑です。
相続開始前3年以内に、
- 自分名義の家に「居住していた」か、
- 配偶者・三親等内の親族、または特別関係法人が所有する家に「居住していた」か
がポイントです。
この「居住していたかどうか」は住民票の記載だけではなく、実際の生活拠点で判断されます。
たとえば、転勤で実家に住所を移したものの、実際は別の社宅に住んでいた場合など、現実の居住実態が重視されるのです。
■ 3.二世帯住宅の扱い
── 「一棟の建物基準」による柔軟な判断
二世帯住宅に住んでいる場合、特例の可否は構造によって異なります。
塩野入講師が指摘するように、ここで重要なのが「一棟の建物基準」です。
この基準では、
- 玄関や台所などの生活設備が共用されている
- 電気・水道・ガスなどの契約が一体化している
といった場合には、「一棟の建物」として被相続人と同居していたものと扱われる可能性があります。
逆に、完全分離型(二つの玄関・台所があり、それぞれ独立して生活している場合)は、同居親族ではなく“家なき子特例”の判定対象になることがあります。
この判断ひとつで、適用の可否が大きく変わるため、
二世帯住宅=自動的にOKではない
という点に注意が必要です。
■ 4.老人ホーム入所中の扱い
── 「やむを得ない事由」があればOK
被相続人が老人ホームなどに入所していた場合、
「相続開始の直前に自宅に住んでいなかった」として特例を諦める人が少なくありません。
しかし、国税庁の取扱いでは、
養護老人ホーム等への入所が「やむを得ない事由」による場合は、なお居住用とみなす
とされています(措法69条の4関係)。
つまり、
- 自宅を維持したまま入所していた
- 帰宅の意思があった
などの場合は、特定居住用宅地等として適用可能です。
ただし、入所中に自宅を貸したり、事業用に転用していた場合は「居住の用に供していない」と判断され、特例の対象外となります。
■ 5.家屋の所有者と居住者の関係
実務では、「被相続人が家屋を所有していなかった場合」の判断も重要です。
たとえば、
- 被相続人の親族が家を所有しており、
- 被相続人がその家を無償で借りて住んでいた
というケースでは、被相続人がその家に実際に居住していれば特例の対象になります。
つまり、
「家屋の所有権がなくても、生活の拠点として使用していればOK」
なのです。
この「敷地の所有者」「家屋の所有者」「居住者」の三者関係を正確に整理しておくことが、現場の判断ミスを防ぐカギとなります。
■ 6.まとめ:実務判断のポイント
| ケース | 特例適用の可否 | 判定のポイント |
|---|---|---|
| 同居親族がそのまま居住 | ○ | 相続開始前から居住し、申告期限まで所有 |
| 家なき子(持ち家なし) | ○ | 過去3年以内に持ち家・親族家に居住なし |
| 家なき子(配偶者名義の家に居住) | ✕ | 「持ち家に居住」とみなされる |
| 老人ホーム入所(自宅を保持) | ○ | やむを得ない理由による非居住 |
| 老人ホーム入所(自宅を賃貸) | ✕ | 居住の用を喪失し適用外 |
| 二世帯住宅(完全分離) | △ | 建物の構造・契約実態で判断 |
参考資料:
東京税理士会「令和7年度第5回会員研修会資料 小規模宅地等の課税特例(特定居住用宅地等)の基礎と実践に向けて」講師:塩野入文雄 氏(2025年5月8日)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
