第10回 老後の住み替え・介護のケーススタディ 3つの実例で学ぶ「どこで暮らすか」「どう支えるか」の最適解

FP
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老後の住み替えや介護の場面では、「自分の家庭ではどうすればいいのか」「どの選択肢が正しいのか」という悩みが必ず生まれます。教科書的な説明では分かりにくくても、実際の家庭に近いケースを通じて考えると、判断のポイントが明確になります。

本稿では、

  • 一人暮らしの後期高齢者
  • 地方に住む親を呼び寄せるケース
  • 夫婦のどちらかが介護状態になったケース

という3つの代表的な状況を取り上げ、それぞれの“住まいの選択肢”“費用感”“家族の関わり方”を整理します。

ケース1

「75歳・女性・一人暮らし」

都市部への住み替えで安心を確保した例

◆ 背景

・地方の戸建てで一人暮らし
・冬の雪かき、車の運転に不安
・子どもは都市部(東京)に在住
・健康状態は比較的良好、要支援なし
・近隣の友人が減り孤立感あり

◆ 課題

  • 通院は車が必須
  • 買い物が不便
  • 夜間の急病時が不安
  • 子どもが遠方でサポートしづらい

◆ 選んだ住まい

サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)
・都市部の駅近
・安否確認・生活相談あり
・外出自由で自立生活を継続可能

◆ 費用

  • 家賃 11万円
  • 共益費 1.5万円
  • 生活支援サービス費 1.5万円
  • 合計:月14〜15万円前後
    (地方の戸建て維持より実質負担は大幅増)

◆ 生活の変化

  • 「雪かき」「運転」「買い物」の不安がゼロに
  • 体調不良時にスタッフへ相談可能
  • 子どもが訪ねやすくなった
  • 外出や趣味活動が増え、生活の質が向上

◆ ポイント

→ 「見守りサービス+生活の便利さ」を優先すると、都市部サ高住は大きな選択肢になります。


ケース2

「80代の親を地方から呼び寄せ」

都市部の賃貸+在宅介護で支える例

◆ 背景

・80代の両親(父:要介護2、母:自立)
・地方の実家は老朽化
・娘夫婦が首都圏で在住
・父の通院が毎週必要、母の負担が限界

◆ 課題

  • 地方では訪問介護の事業者が少なく確保できない
  • 病院まで片道30分以上で母の付き添いが重い
  • 夜間の急変が心配
  • 娘夫婦は遠距離で頻繁に帰省できない

◆ 選んだ住まい

UR賃貸の2DK(エレベーター付き)
・家賃 8.5万円
・保証人不要・高齢者でも入居しやすい
・近隣に病院・スーパーあり

◆ 選んだ介護体制

  • 訪問介護(週4回)
  • デイサービス(週2回)
  • 訪問看護(月2回)
  • 福祉用具レンタル(歩行器・手すり)

◆ 生活の変化

  • 父の通院がタクシー10分で完結
  • 母の負担が大幅減
  • 娘夫婦が週末にサポートしやすくなった
  • 介護保険サービスをフル活用できるように

◆ 費用感

  • 賃貸家賃:8.5万円
  • 介護保険自己負担:月1.5万円
  • 生活費:15〜20万円
    (地方より固定費は増えたが、安心感は大幅に改善)

◆ ポイント

→ 呼び寄せ介護の成功は「医療への距離」「介護サービスの確保」にかかっています。


ケース3

「夫が80歳で要介護3」

妻と二人暮らしの“自宅か施設か”の判断

◆ 背景

・夫80歳(要介護3)
・妻78歳(自立だが体力に不安)
・持ち家(エレベーターなしの3階)
・近隣の親族なし
・妻ひとりでの介護が限界

◆ 課題

  • 階段の昇り降りが危険
  • 妻の身体負担が大きい
  • 夜間の排泄介助で睡眠不足
  • 夫本人の認知機能が低下
  • ヘルパーの利用だけでは補えない

◆ 選択肢

  1. 自宅をバリアフリーに改修して住み続ける
  2. サ高住へ夫婦で住み替える
  3. 夫のみ介護付ホームに入居、妻は近隣の賃貸へ
  4. 夫婦で介護付ホームに入居(高額)

◆ 実際の選択

3. 夫のみ介護付ホームへ入居し、妻は近隣賃貸へ住み替え

◆ 理由

  • 夫は24時間介護が必要
  • 妻の体力的・精神的負担を最小化
  • 妻は自立生活が可能
  • 経済的にも「夫のみ入居」が最も現実的

◆ 費用

  • 夫:介護付ホーム 月25万円
  • 妻:賃貸の家賃 月7万円
  • 合計:月32万円前後

◆ 結果

  • 夫は安定したケア環境で穏やかに過ごせるように
  • 妻は自分の生活リズムを回復
  • 面会は電車で10分、無理なく通える距離

◆ ポイント

→ 高齢夫婦は「二人の介護度の差」が住まいの方向性を大きく左右します。


3つのケースに共通する“判断ポイント”

1. 医療・介護へアクセスしやすいか

距離や交通手段は、生活の安心に直結します。

2. 家族の負担は適切か

介護の8割は家族が担っていると言われ、負担度を軽減する住まい選びが重要です。

3. 費用は持続可能か

初期費用+月額費+将来の医療・介護費をセットで試算します。

4. 本人の意思が尊重されているか

本人が納得して住み替えるかどうかで、その後の生活の質が大きく変わります。

5. 将来の変化に対応できるか

住まいは「最低でも5年後を見据えて」柔軟性を持つことが重要です。


結論

老後の住み替えや介護の判断に“絶対の正解”はありません。しかし、実例を通して見えてくる共通点は確かにあります。

  • 安全に暮らせる住環境
  • 医療・介護サービスへのアクセス
  • 家族の負担の軽減
  • 継続可能な費用
  • 本人の意思の尊重

これらを丁寧に整理していくことで、その家庭にとって最適な選択が見えてきます。

老後の住まい選びは「生活そのものの再設計」です。
家族が協力し合い、親の価値観と現実的な条件を合わせて考えることで、より安心で満足度の高い暮らしが実現します。


出典

厚生労働省「介護保険制度」、総務省統計、高齢者住宅情報サービス各社資料 ほか


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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