第1回:中小企業が仕掛けるAI活用の最前線

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――柔軟さを武器に大企業に逆輸入される時代へ

「AIといえば大企業の専売特許」――そんな時代はもう過去のものになりつつあります。近年、中小企業が自社開発の人工知能(AI)を武器に、大企業顔負けの成果を出す事例が続々と登場しています。特別なスキルを持つ人材が不足するなかで、AIをうまく活用すれば、中小企業でも大企業と対等以上に渡り合える。むしろ、小回りの利く中小だからこそ、大企業に採用される新しいビジネスモデルをつくり出せる時代が始まっているのです。

本記事では、実際の事例を取り上げながら「中小企業がどのようにAIを業務に合わせてアレンジし、大企業にまで展開しているのか」を見ていきます。


ソプラの「CodeAGI」――設計書からシステムを自動生成

大阪市のソプラは、2024年に画期的なサービス「CodeAGI」をスタートさせました。業務システムの設計書をAIに読み込ませると、わずか数分から数十分でプログラムを自動生成できる仕組みです。

教材開発のスピードを2倍に

導入企業のひとつがTOPPANホールディングスのグループ会社、TOPPANデジタルです。同社は小中学生向けオンライン学習サービスの教材開発にCodeAGIを活用。AIが大枠を作り、残りの仕上げを熟練技術者が担当することで、開発時間を従来の50%に短縮できたといいます。

教育分野の開発は細かい修正やコンテンツ追加が頻繁に発生します。これを人手だけで行うのは時間もコストもかかる。しかしAIが大まかなシステムを素早く作成することで、開発者は「付加価値の高い部分」に集中できるようになったのです。

方言を理解するAI

ソプラの強みは「設計書の方言を理解する」点にあります。例えば在庫管理の設計書では、ある会社は「在庫引当」と記し、別の会社は「在庫振替」と書く。同じ意味でも表現が異なると、一般的な生成AIは誤認してしまう恐れがあります。

そこでソプラは、単語だけでなく前後の文脈から意味を読み取る技術を開発。方言の違いを吸収し、誤認を防ぐ仕組みを作りました。この工夫により、在庫管理からECサイト構築、大規模基幹システムの開発まで幅広い用途で利用可能になっています。

NTTドコモソリューションズ(旧NTTコムウェア)も、業務システムのデータ移行ツール開発にソプラのAIを活用。大企業のニーズに応えられる点は、まさに中小のAI開発企業が「逆輸入」される好例といえるでしょう。


neoAIの「Chat」――発注書を自動で作成

東京大学発のスタートアップneoAIも注目を集めています。AI研究の第一人者である松尾豊教授が技術顧問を務めるこの会社は、電力会社や金融機関向けに業務効率化ソリューションを提供しています。

電力会社の事例

ある電力会社では、工事の予定日などを担当者が「neoAI Chat」に伝えると、AIが過去の発注書を参照して新しい発注書を自動で作成してくれるようになりました。以前は人手で時間をかけていた作業が、数クリックで完了するのです。

これにより、事務作業の負担が大幅に軽減され、担当者は本来の業務に集中できます。AIが「専門知識不要」で使える点が最大の特徴で、技術者でなくても業務を効率化できる環境を提供しているのです。

成長戦略

neoAIはすでに約110社の法人顧客を抱え、2025年6月期には売上高7億円を達成。2027年末までに顧客1000社、2028年6月期までに売上40億円という目標を掲げています。まさに中小企業が大企業と肩を並べるだけでなく、新しい市場を切り拓いている例です。


サピートの営業支援AI――「人の心に寄り添う」提案

さらに、東京のスタートアップ「Sapeet(サピート)」は、営業担当者の日常業務をサポートするAIを開発中です。

このAIは、商談相手の声から性格傾向を推測し、相手に響きやすい話し方を提案するというユニークな機能を備えています。単なる業務効率化にとどまらず、「人間関係の最適化」にまで踏み込んでいる点が特徴です。

また、日報作成や商談後のお礼メールといった定型業務もAIが代行。営業担当者は“売上に直結する活動”に集中できるようになります。正式版の提供は2026年を予定しており、今後の普及が期待されます。


中小企業が勝てる理由

これらの事例から見えてくるのは、中小企業ならではの強みです。

  1. 柔軟な発想とスピード感
    • 大企業では承認や調整に時間がかかるが、中小は素早く実験し、改良できる。
  2. 顧客の課題に寄り添った開発
    • 「在庫引当」と「在庫振替」の違いに代表されるように、細かいニーズに対応できる。
  3. 大企業への逆輸入
    • 小さく始めたAIサービスが、やがて大企業に採用される流れが起きている。

つまり、資金や人材が限られていても「業務に合わせてAIをアレンジ」できれば、むしろ大企業より優位に立てる場面もあるのです。


まとめ

AIの進化は、中小企業にとって大きな“逆転のチャンス”を生み出しています。

  • ソプラはシステム自動生成で教材開発時間を半減。
  • neoAIは発注書作成を自動化し、専門知識不要を実現。
  • サピートは営業活動に“人間らしい価値”を加えるAIを開発。

これらはいずれも「小さな企業が自社に合わせてAIを柔軟にアレンジ」した結果です。今後、こうした動きはさらに加速し、「小さくても勝てる」時代が本格化していくでしょう。


👉 次回(第2回)は、こうしたAI活用の背景にある「2025年の崖」問題――老朽システムと人材不足の現実について掘り下げます。


📌 参考資料
「〈小さくても勝てる〉業務に合わせAIアレンジ 中小が機転、大企業で採用続々」
日本経済新聞(朝刊)2025年9月23日

という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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