「老後資金の準備はしなきゃいけない」と頭ではわかっていても、実際にどんな制度をどう使えばよいか、つい先延ばしにしてしまう方は多いと思います。その中で今、加入者が急増しているのが確定拠出年金(DC)です。
企業型と個人型(iDeCo=イデコ)があり、毎月一定の掛け金を自分で運用して、将来の年金に備える仕組み。ところが「制度に入ったはいいけれど、商品を選んだまま放置している」という声もよく聞かれます。
実は、この「放置」が老後の資産形成にとって大きなリスクになるのです。今回は、確定拠出年金の基本と、なぜ定期的なチェックが欠かせないのかを解説します。
確定拠出年金(DC)とは?
DCは「自分年金」を作る制度とも呼ばれます。掛け金を拠出し、自分で選んだ金融商品(投資信託や定期預金など)で運用。将来、その成果に応じた年金を受け取る仕組みです。
大きく分けると次の2種類があります。
- 企業型DC:会社が掛け金を拠出。従業員はその枠の中で商品を選んで運用する。
- 個人型DC(iDeCo):自分自身が掛け金を出す。全額が所得控除の対象となり、節税効果が大きい。
両者に共通しているのは、「自分で運用責任を負う」という点。ここが一般的な公的年金や企業年金と大きく異なります。
加入者は急増中
運営管理機関連絡協議会のデータによると、2024年3月末時点で企業型DCの加入者は830万人超。資産額も約22兆7,900億円と、わずか4年で7割近く増えています。iDeCoも利用者が200万人を突破し、右肩上がりに増え続けています。
背景には、以下のような理由があります。
- 国の年金制度への不安(将来の受給額減少リスク)
- 企業の福利厚生としての導入拡大
- 税制優遇が強力(掛け金が全額所得控除)
- 資産運用ブームでの投資への関心の高まり
「やっている人が増えている」という流れは、安心感にもつながりますが、同時に「周囲もやっているから大丈夫」という錯覚を生みやすいので注意が必要です。
放置の落とし穴
実際にあった事例をご紹介します。
東京都内に住む30代の女性会社員は、転職を機に企業型DCに加入しました。当時「なんとなく投資信託を選んだ」ものの、そのまま6年間放置。最近ふと気になって専用サイトにログインしたところ、国内債券に偏った配分になっており、資産はほとんど増えていなかったといいます。
「もっと早くチェックしておけばよかった」と苦笑する彼女のように、「ほったらかし」の代償は意外と大きいのです。
なぜ定期チェックが必要なのか
確定拠出年金は「積立投資」という性格を持っています。つまり、毎月一定額を自動的に投資商品に振り分けていくもの。長期投資には有利な仕組みですが、以下の理由から定期点検が不可欠です。
- 資産配分が崩れる
株式や債券などの値動きによって、最初に設定した比率が変わってしまいます。これを放置するとリスクが偏り、思わぬ損失につながる可能性があります。 - 商品ラインアップが変わる
企業型DCでは、途中で新しい投資信託が追加されることもあります。低コストで魅力的な商品が出ても、気づかないまま旧商品に投資を続けてしまうリスクがあります。 - ライフステージの変化に対応できない
若い時期はリスクを取れる一方、定年が近づけば安全資産を増やすべきです。しかし放置すると、ライフステージに合わない資産配分になりかねません。
まずやるべき「年1回の点検」
具体的な行動としては、年に1回は必ずログインして確認することを習慣にしましょう。チェックするポイントは次の3つです。
- 資産配分が偏っていないか(株式が増えすぎていないか、債券に偏りすぎていないか)
- 商品ラインアップに新しい低コスト投信が追加されていないか
- ライフステージに合った配分になっているか
これを定期的に見直すだけで、将来の資産形成は大きく変わります。
「やらないリスク」の方が大きい
「投資は怖いから」といって定期預金100%にしている人も少なくありません。しかし、インフレが進めば現金の価値は目減りします。
また、せっかくのDCの節税メリットを最大限活かすなら、投資信託を一定割合組み込むことが欠かせません。
「元本割れが怖い」という気持ちは自然ですが、放置してしまうこと自体が最大のリスクになりうるのです。
まとめ
- 確定拠出年金(DC)は、自分で運用する「自分年金」。
- 加入者は急増しているが、放置すると資産は増えないことも。
- 定期的なチェックで、資産配分の偏りや商品変更に対応することが大切。
- 年1回の点検を習慣にすれば、放置のリスクを避けられる。
老後資金づくりに「魔法の方法」はありません。地道な積み立てと、定期的なメンテナンス。このシンプルな習慣こそが、未来の自分を支える「自分年金」を育てるのです。
👉 次回(第2回)は、**「分散投資とリバランスで安定運用」**について詳しく解説します。
(参考 2025年9月13日付日経新聞朝刊)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

