空き家相続は「早めの話し合い」が最大のリスク回避策― 放置が生む経済的損失と税務上の落とし穴 ―

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全国で900万戸に達した空き家。2030年代には1800万戸を超えるとも予測され、もはや個人の問題ではなく社会的課題となっています。
相続をきっかけに空き家となるケースは多いものの、対応を先送りにすればするほど、家計にも地域にも負担が重くのしかかります。
本稿では、相続空き家をめぐる「放置のリスク」と「早期対応のポイント」を整理します。

1. 話し合いの有無で明暗が分かれる

国土交通省の実態調査によると、相続前に遺言作成や事前協議を行った場合、空き家のまま残る割合は約16ポイントも低下しました。
理由は明確です。相続から時間が経つにつれ、共有者の高齢化や認知症リスクが進み、意思統一が困難になるからです。
相続人が複数いる場合、「全員の同意がなければ売却できない」ため、早期に方針を共有しておくことが重要です。

2. 放置すればコストは年々増える

空き家の維持には固定資産税や火災保険料、水道光熱費、剪定費などがかかります。
さらに、解体費は人手不足などの影響で毎年5%前後上昇しているとされ、先送りにするほど費用が膨らみます。
「電気や水道を止めると片付けもできない」「火災保険を解約すれば放火リスクも高まる」といった声も多く、
“使わない家ほど管理コストが増す”という逆転現象が生じています。

3. 周辺住宅価格への影響

横浜市立大学の研究によると、50メートル圏内に長期空き家が1軒増えるだけで、周辺住宅の取引価格が約3%下がる傾向があるといいます。
庭木の繁茂や害虫の発生、不法投棄などによる環境悪化が心理的・経済的影響を及ぼすためです。
空き家は「自分の家」だけでなく、「地域の価値」をも下げかねない存在なのです。

4. 税制面のチャンスを逃さない

相続空き家の売却には、2つの代表的な特例があります。
1つは「相続空き家の3,000万円特別控除」、もう1つは「取得費加算の特例」です。
ただし、これらには期限があります。
相続後の話し合いが長引くと、特例の適用期限を過ぎ、税負担が増えるおそれもあります。
多くの場合、相続税額が極端に高いケースを除けば、3,000万円特別控除のほうが有利とされます。
逆にマンションなど適用外のケースでは、取得費加算特例を検討するのが現実的です。

5. 対応の選択肢は4つ

空き家をどうするかは、大きく以下の4つの選択肢に分かれます。

  • 住む:自分または親族が住む場合、修繕や名義変更を早めに進める。
  • 売る:最もシンプルな方法。市場での劣化前に売却するのが理想。
  • 貸す:維持費を賄えるかを試算した上で検討。
  • 国庫帰属制度を利用:解体など条件を満たせば土地を国へ返還できるが、該当しないケースも多く「最後の手段」と考えるのが現実的です。

結論

空き家問題の核心は、「時間」と「共有」にあります。
相続が始まる前から方針を共有しておけば、税制優遇を活かし、余計なコストやトラブルを避けることができます。
逆に「話し合いを先送りにすること」こそが、最大のリスクです。
親世代の元気なうちに、家族全員で“我が家のこれから”を考える――それが、空き家問題の最善の予防策です。


出典

  • 日本経済新聞「相続空き家、放置は負担重く」(2024年10月31日)
  • 総務省「住宅・土地統計調査」
  • 国土交通省「空き家所有者実態調査(2024年)」
  • 横浜市立大学 鈴木雅智准教授 研究資料
  • NPO法人空家・空地管理センター/全国空き家対策コンソーシアム 発言資料

という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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