1. 税理士がサステナ経営に関与すべき理由
中小企業にとっての「サステナ経営」は、理念ではなく事業存続の前提になりつつあります。
脱炭素・人材確保・金融機関評価――いずれも、企業の数字と制度対応が問われる領域です。
税理士が関与できるのは、単なる会計処理ではなく、
「数字で信頼を見える化する」支援。
この視点から、実際に顧問先へ提案できる10のサステナ支援メニューを、分野別に整理しました。
2. 【環境(E)】脱炭素・省エネ支援の実務
✅ 実務①:光熱費データを使ったCO₂削減“見える化”
- 決算書・会計データに基づき、「電気代推移」と「使用量(kWh)」を月次で可視化。
- Excelやfreee・MFクラウドのデータ連携で自動グラフ化も可能。
📊 効果:電力削減率の「定量データ」を金融機関の環境融資審査で提示可能。
✅ 実務②:省エネ設備導入の投資判断+税制優遇の提案
- 中小企業経営強化税制、グリーン投資減税を活用。
- 提案資料では「投資額」「節電効果」「回収年数」を同一シートで提示。
💬 顧問先への提案トーク例
「LEDや高効率空調を導入すると、5年で回収可能です。即時償却も使えます。」
📋 チェックポイント
☑ 投資目的が「省エネ」「業務効率化」のどちらか明示されているか
☑ 適用税制の確認と届出書類の提出スケジュールを整理
3. 【社会(S)】人的資本・地域との関係性支援
✅ 実務③:従業員データから「人的資本レポート」を作成
- 離職率・有給取得率・男女比などをKPI化して年次推移を作成。
- 経営計画書や銀行説明資料に添付可能。
💡 活用シーン:
「健康経営優良法人」「働きやすい職場認定」などの加点申請にも利用可能。
📋 チェックリスト
☑ 離職率・有給取得率・研修費用が定期的に把握されているか
☑ KPIは前年比比較できる形で整備されているか
✅ 実務④:人材育成投資の税制適用(人材開発促進税制)
- 研修費・資格取得費を「教育訓練費」として整理。
- 税額控除(最大20%)の適用可否を確認。
📋 チェックリスト
☑ 研修費用の支出区分が給与・外注・旅費等で整理されているか
☑ 適用届出が期限内に提出されているか
✅ 実務⑤:地域貢献活動を“経費+PR”に変換
- 地域イベント協賛や清掃活動を「地域貢献費」として整理。
- 自社HP・採用ページで写真+金額の形で開示支援。
📊 効果:地域ブランディング・採用・補助金審査で加点対象に。
4. 【ガバナンス(G)】経営透明化・リスク管理支援
✅ 実務⑥:経営会議・取締役会議事録の整備サポート
- サステナ経営方針・リスク管理内容を会議録として残す。
- 税理士が議題項目例を提示し、記録フォーマットを提供。
📋 チェックリスト
☑ 経営方針・人材・環境の議論が議事録に反映されているか
☑ 毎期の確認日程を決めているか
✅ 実務⑦:サステナ報告・HP掲載支援
- 顧問先の「会社概要」ページに、簡易なサステナ情報欄を追加。
- 税理士が文章・数値整理を代行。
🖋 例文テンプレート
「当社は地域社会と共に発展し、環境配慮と人づくりを大切にしています。」
💡 金融機関のESGヒアリングでは、“公開しているか”が重要評価項目です。
✅ 実務⑧:サステナ融資・補助金申請の連携支援
- 地域銀行や信金の「サステナ評価融資」の加点要件を整理。
- 顧問先の事業計画に「環境・人材KPI」を追加して提出。
📋 チェックリスト
☑ 銀行の融資基準(CO₂削減・人材定着)を確認済みか
☑ 経営計画書にESG関連KPIを追記しているか
5. 【統合提案】サステナ経営の“数字化”支援
✅ 実務⑨:月次レポートに「サステナ指標欄」を追加
- 通常の損益レポートに「環境」「人材」「地域」3項目を追加。
例)月次レポート追記欄
| 月次項目 | 数値 | コメント |
|---|---|---|
| 電力使用量(kWh) | 3,210(▲4%) | LED更新効果あり |
| 離職率 | 年換算4% | 教育制度効果あり |
| 地域イベント支出 | 12万円 | 商工会活動協賛 |
💬 経営者との対話テーマ
「利益+社会的価値を見える化すると、金融機関からの信頼が上がります。」
✅ 実務⑩:顧問先ごとの「サステナ経営支援計画書」を作成
- 顧問先の業種別に重点テーマ(E・S・G)を整理。
- 3年後の指標目標を設定し、税務顧問契約に付随。
フォーマット例(概要)
| 分野 | 現状 | 改善目標 | 支援内容 |
|---|---|---|---|
| 環境 | 光熱費前年比▲2% | 5年で▲10% | 設備投資+税制支援 |
| 社会 | 有給取得率70% | 80% | 就業規則・研修制度見直し |
| 統治 | 会議体なし | 年2回開催 | 議事録テンプレート提供 |
📊 効果:
税務顧問契約の付加価値化 → 「数字をまとめる」から「経営を支える」顧問へ進化。
6. 実践チェックリスト(まとめ)
| 分類 | 提案内容 | 顧問先対応状況 |
|---|---|---|
| E1 | 光熱費・CO₂削減の見える化 | □済 □未 |
| E2 | 省エネ設備投資+税制適用 | □済 □未 |
| S1 | 人的資本レポートの作成 | □済 □未 |
| S2 | 教育投資の税額控除支援 | □済 □未 |
| S3 | 地域貢献活動の整理・開示 | □済 □未 |
| G1 | 会議録整備・方針議題化 | □済 □未 |
| G2 | HP・サステナ情報発信支援 | □済 □未 |
| G3 | 融資・補助金対応支援 | □済 □未 |
| I1 | 月次レポートにサステナ指標追加 | □済 □未 |
| I2 | 顧問先別支援計画書の策定 | □済 □未 |
💬 運用のコツ
- 四半期ごとにチェック欄を更新し、顧問先に「成長の見える化」を提案。
- 同表を「経営計画書の別紙」として提出すると金融機関の印象が良くなります。
7. まとめ ― 税理士は「信頼の翻訳者」である
サステナ経営において、税理士は経営者の理念を数字に翻訳する存在です。
財務諸表だけでは伝わらない「信頼の物語」を、税務・会計の言葉で可視化する。
それこそが、これからの“地域税理士の新しい専門性”です。
数字で支えるサステナ。
税理士が変われば、地域の未来も変わる。
出典:2025年10月24日 日本経済新聞「有報、サステナ記述5割増 環境・企業統治など」
(参考:経済産業省「中小企業サステナ経営支援指針」/国税庁「人材開発促進税制Q&A」/金融庁「サステナ金融ガイドライン」)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

