ここまで4回にわたり「税効果会計」をテーマに解説してきました。
最終回となる今回は、総まとめとして「税効果会計を通じて企業の何が見えるのか」「投資家や一般の人にとってどんな意味があるのか」を整理してみましょう。
税効果会計の本質
税効果会計とは一言で言えば、
「財務会計と税務会計のズレを期間配分し、利益と税負担の対応関係を明らかにする」
ための仕組みです。
- 財務会計:投資家や株主に企業の業績を正しく伝えるためのルール
- 税務会計:国に税金を納めるためのルール
この2つは似て非なるものであり、費用や収益の認識時期が異なることがあります。
その違いを埋めるために、繰延税金資産や繰延税金負債を用いて調整するのが税効果会計です。
将来利益を「宣言」する仕組み
税効果会計が面白いのは、単なる会計テクニックにとどまらず、企業の将来に対する見通しを示すという点です。
繰延税金資産は「将来、課税所得が出てくるはず」という前提で初めて計上できます。
逆に言えば、繰延税金資産の存在は「うちの会社は今後も利益を出せますよ」というメッセージなのです。
ところが業績が悪化したり、事業計画を見直したりすると、この前提が崩れて繰延税金資産を取り崩す必要が出てきます。
その瞬間、企業は「これまで期待していたほどの利益は出せない」と認めたことになります。
減損とのダブルインパクト
実際の決算発表では、減損と繰延税金資産の取り崩しが同時に出てくることが少なくありません。
- 減損処理 → 資産の収益力が落ちたことを認める
- 繰延税金資産の取り崩し → 将来の利益見込みが弱まったことを認める
両者は表裏一体です。
「資産が稼げない」→「税金を軽くする効果も期待できない」
という流れは、投資家にとって強烈なマイナスシグナルになります。
大王製紙やコニカミノルタの例はまさにこの典型でした。
財務体質への影響
繰延税金資産を取り崩すと、純資産が減少し、自己資本比率が悪化します。
金融機関や格付機関は自己資本比率を重視するため、信用力の低下につながることもあります。
かつてりそな銀行が繰延税金資産の計上を巡って監査法人と対立し、最終的に公的資金注入に至った事例は、税効果会計の重大性を象徴しています。
単なる会計上の数字ではなく、経営そのものを左右する要素なのです。
投資家・一般読者が得られる視点
ここまでの内容を踏まえると、投資家や一般の読者が税効果会計から得られる視点は次の通りです。
- 利益と税金の対応関係を見る
税引前利益と法人税等がかけ離れていないかをチェックする。 - 実効税率の変動を確認する
急に高くなったり低くなったりしていないか、その理由を探る。 - 繰延税金資産の規模に注意する
大きすぎる場合は、取り崩しリスクが将来の株価や財務に影響する可能性がある。 - 注記の分析を読む
ズレの理由を企業自身がどう説明しているかを確認する。
これらを見れば、単なる「売上」「利益」だけでは見えない、企業の将来の姿が浮かび上がってきます。
税効果会計から読み解ける企業の姿
最終的に言えるのは、税効果会計は「企業が将来も利益を出せるかどうか」という問いに対するひとつの答えを示すものだということです。
- 繰延税金資産をきちんと計上できている企業 → 将来の利益創出に自信を持っている
- 繰延税金資産を取り崩す企業 → 事業の収益力が揺らいでいる
決算書は「過去の成績表」だと思われがちですが、税効果会計を通じて未来を映し出す鏡にもなっているのです。
まとめ
- 税効果会計は「利益と税負担の対応関係を整える仕組み」
- 繰延税金資産の計上は「将来利益を出せる」という企業の宣言
- 減損や業績悪化で取り崩すと、企業の将来見通しの悪化を示す
- 投資家や一般の人も、実効税率や繰延税金資産を見れば企業の将来性を読むヒントが得られる
👉参考:日本経済新聞「会計フォローアップ(3)税効果会計 財務と税務のズレ調整」(2025年9月18日付 朝刊)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

