■ ストックオプションとは?
ストックオプションとは、自社の株式をあらかじめ決めた価格で購入できる権利(株式購入権)のことです。
企業が役員や社員に付与することで、会社の成長と株価上昇の成果を共有できる「インセンティブ報酬」として広く活用されています。
株価が上がれば、その分だけ行使価格との差額が利益になります。
ただし――その利益に対する課税タイミングと税率が、制度の種類によって大きく異なります。
■ 税制適格型と非適格型の違い
ストックオプションには次の2種類があります。
| 区分 | 税制適格ストックオプション | 税制非適格ストックオプション |
|---|---|---|
| 主な対象者 | 役員・従業員 | 外部役員・顧問なども可 |
| 行使価額 | 株式交付時の時価以上 | 制限なし |
| 課税時期 | 株式売却時 | 権利行使時(給与課税) |
| 課税区分 | 譲渡所得(分離課税20.315%) | 給与所得(総合課税・最大55%) |
| 源泉徴収 | 不要 | 必要 |
| 要件 | 税法で厳格に定義 | 制限なし |
つまり、「税制適格型」であれば行使時の課税を繰り延べられ、税率も低くなるという税務上の大きなメリットがあります。
■ 税制適格ストックオプションの主な要件(所得税法施行令29の2)
税制適格と認められるためには、次のような厳格な条件をすべて満たす必要があります。
① 対象者が自社の役員・従業員であること
付与対象は発行会社またはその子会社の役員・従業員に限定されます。
外部顧問や業務委託先への付与は、適格要件を満たしません。
② 権利行使価額が「付与決議時の株価以上」であること
行使価額が安すぎると「実質的な給与」とみなされるおそれがあるため、
株式交付決議日の時価以上でなければなりません。
③ 権利行使期間が付与から2年以上後であること
短期的な利益目的を避けるため、
権利付与決議から2年以上経過後に行使できるように設定する必要があります。
④ 株式の譲渡制限などの条件を設定していること
ストックオプションで取得した株式は、譲渡制限付き株式である必要があります。
このため、売却までに一定の制約期間が設けられるのが一般的です。
⑤ 年間の権利行使価額が1,200万円以下であること
税制優遇を受けられるのは、1年間に行使できる権利の価額が1,200万円以内の部分までです。
それを超える部分は、非適格扱いとなります。
■ 売却時の課税 ―「譲渡所得」として申告
税制適格ストックオプションは、行使時ではなく株式を売却した時点で課税されます。
課税区分は「譲渡所得(申告分離課税)」で、税率は一律20.315%(所得税15%+住民税5%+復興特別所得税0.315%)です。
たとえば、
- 行使価額:1株=1,000円
- 売却価額:1株=3,000円
- 株数:1,000株
の場合、利益は(3,000円-1,000円)×1,000株=200万円。
この200万円に対して20.315%の税率が適用され、約40万円の税金を支払うことになります。
■ よくある誤解と申告ミス
会計検査院の調査(2025年10月)では、税制適格型で約18億8千万円分が無申告だった可能性が指摘されています。
背景には、次のような誤解が見られます。
- 「税制適格型だから確定申告は不要」と思い込んでいた
- 株式を売却した年を誤って申告していた
- 行使分の記録(株価・株数・付与日)を保管していなかった
特に、複数年にわたって付与・行使が行われるケースでは、管理のずれが起こりやすく注意が必要です。
■ 企業側が注意すべき実務ポイント
経理・人事担当者の立場では、次の点を押さえておきましょう。
- 税制適格要件を満たすように設計・決議すること
→ 株主総会議事録・契約書に明記。 - 行使状況を正確に把握・記録すること
→ 権利付与日、行使日、株価、株数を一元管理。 - 従業員への税務説明を行うこと
→ 売却時の申告方法や税率を案内しておく。 - 国税庁への届出書類の提出を確実に行うこと
→ 「株式交付届出書」等の遅延・漏れはリスクになります。
■ まとめ ― 成功報酬も「正しい申告」から
ストックオプションは、企業成長の果実を社員と分かち合う仕組みです。
しかし税制優遇を受けるには、法律で定められた要件をすべて満たし、適切に申告・管理することが前提です。
税務リスクを軽減するためには、
- 税理士・社会保険労務士と連携した制度設計
- 年次ベースでの行使記録の管理
- 社員への税務研修や説明会の実施
が欠かせません。
「報酬の透明性」は、企業の信頼性にも直結します。
正しく理解し、正しく申告すること――それが、成長企業の第一歩です。
出典:2025年10月21日 日本経済新聞朝刊「ストックオプションで得た利益、申告・課税漏れ多発か」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
