政府と与党が検討を進める「ハイパー償却税制」は、単なる減税措置にとどまらず、日本経済の構造転換を促す「投資主導型成長戦略」の中核として注目されています。
本稿では、この制度が掲げる狙い、政策的背景、企業行動への影響、そして税理士・FPが注視すべき実務的論点を整理します。
1. 政策の背景 ― 投資を軸にした新しい成長モデル
高市政権が掲げる経済方針「責任ある積極財政」は、従来の緊縮型財政からの転換を明確に打ち出しています。
財政健全化を目標としつつも、成長投資を先行させることで税収増を図る考え方です。
この中核をなすのが「ハイパー償却税制」です。国民民主党が提唱してきた「取得額以上の償却を認める」という構想を踏まえ、
企業の投資意欲を直接刺激しようとするものです。
政策の狙いは、単に減税を行うことではなく、企業の投資拡大 → 生産性上昇 → 税収増加 → 財政再投資という循環を生み出す点にあります。
2. 税制の構造 ― 「ハイパー償却」はなぜ異例なのか
ハイパー償却の特徴は、従来の即時償却(100%償却)を超え、取得額を上回る償却(例:120%)を認める点にあります。
つまり、帳簿上は取得額以上の損金が計上され、実質的な“マイナス課税ベース”を一時的に発生させる仕組みです。
この設計は、法人税の課税繰延効果にとどまらず、投資余力を拡大させる「先行型財政刺激」の性格を持ちます。
結果として、民間企業が将来の収益に先行して投資を行いやすくなる一方で、財政当局にとっては短期的な税収減を伴うため、財源設計と制度期間の設定が極めて重要になります。
3. 政策効果の期待と課題
政府・与党内では、ハイパー償却を2035年までの名目GDP1000兆円構想の推進エンジンと位置づけています。
AI、半導体、再生可能エネルギー、医療・バイオなどの「戦略分野」への投資拡大を促す狙いがあります。
ただし、実効性を高めるためには次の課題があります。
- ① 企業格差の是正:大企業中心の制度設計では中小企業の恩恵が限定される。
- ② 投資対象の選定:単なる更新投資ではなく、生産性向上・技術革新に直結する投資に限定する必要。
- ③ 財源の確保:短期税収減に対する財政的補完措置が不可欠。
これらをクリアすれば、ハイパー償却は“日本版サプライサイド経済政策”として定着する可能性があります。
4. 税理士・FPが果たすべき役割
ハイパー償却の実務適用にあたって、税理士・FPが担う役割は従来以上に重要になります。
- 税理士の視点:
・償却超過分の税務処理、調整勘定、将来の税効果の検証
・適用判定のための事業計画・設備認定手続きの支援
・財務諸表への影響分析と経営者説明資料の作成 - FPの視点:
・経営者のキャッシュフロー計画への反映
・法人保険・投資・融資戦略との整合性
・中小企業経営者への制度選択(即時償却・税額控除との比較)の助言
特に中小企業や個人事業主に対しては、「単年度の節税」ではなく「成長投資への再配分」として制度を位置づける助言が求められます。
5. 政策の先にあるもの ― 「投資国家」への転換
ハイパー償却の議論は、単なる税制テクニックを超えて、日本経済の「構造的成長モデルの再設計」を意味します。
これまでの「家計消費主導」から、「企業投資・技術革新主導」へ。
その転換点において、税制は単なる徴税の仕組みではなく、「国家の成長戦略を実現するための政策装置」としての役割を強めています。
財政規律と成長投資をどう両立させるか――。
これは、税制改正の議論を超えて、日本の経済哲学そのものを問うテーマといえるでしょう。
結論
ハイパー償却税制は、単なる減税ではなく「未来への投資を後押しする成長装置」です。
短期的には財政負担を伴うものの、投資拡大と技術革新による長期的な税収増を目指す構想は、
停滞する日本経済において久々に「攻めの税制」と呼べる内容です。
税理士・FPとしては、制度の適用要件を理解するだけでなく、
顧客企業が“どの分野に、どのタイミングで投資すべきか”を共に設計できる専門家としての役割が期待されます。
税制は経済戦略の言語であり、今まさにその翻訳力が問われています。
出典
日本経済新聞(2025年11月13日付)/国民民主党「経済対策提言書」/財務省・経済産業省 税制改正要望資料(2025年)/内閣府「責任ある積極財政」政策説明資料
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

