研究開発税制や賃上げ促進税制など、企業向けの税制優遇は拡大しています。政策目的は明確です。投資を促し、賃金を引き上げ、経済成長を後押しすることにあります。
しかし、税制優遇は市場に中立的な制度ではありません。特定の行動をとった企業の税負担を軽くする以上、競争条件に影響を与えます。
本稿では、税制優遇が持つ競争への影響を整理し、その可能性と限界を考えます。
税制優遇は「価格」に作用する政策
市場競争は、価格、品質、技術、ブランドなどの要素で成り立ちます。そのうち価格は、コスト構造に大きく左右されます。
税制優遇は、法人税の軽減という形で企業のコストに作用します。結果として、内部留保の増加、価格戦略の余地、追加投資の原資などに影響を与えます。
問題は、その効果がすべての企業に均等ではない点です。
規模による影響の差
研究開発税制を例にとると、試験研究費の絶対額が大きい企業ほど減税額も大きくなります。さらに、利益水準が高い企業ほど税額控除の効果が明確に現れます。
その結果、
- 研究開発投資ができる企業は、より優遇を受けやすい
- 投資余力の乏しい企業は、制度効果を十分に享受できない
という構造が生まれます。
政策としては投資を促す仕組みですが、結果として競争力の差を拡大する可能性もあります。
業種・分野による偏り
税制優遇は、特定分野への誘導を目的とします。研究開発、DX、脱炭素など、政策重点分野は明確です。
しかし、市場全体から見れば、重点分野に属さない企業は相対的に不利になります。
例えば、
- 地域密着型サービス業
- 労働集約型の小規模事業
- 技術革新よりも安定供給を重視する業種
これらの分野では、税制優遇の恩恵は限定的です。政策誘導が競争環境に構造的な差を生む可能性があります。
税制優遇は「中立性」を損なうか
税制の基本原則の一つに中立性があります。特定の経済主体や行動を過度に優遇しないことが望ましいとされます。
しかし、現実の税制は政策目的を内包しています。租税特別措置は、その典型です。
中立性を完全に守れば、行動誘導は困難になります。逆に、政策目的を重視しすぎれば、市場競争の公平性が揺らぎます。
このバランスは常に緊張関係にあります。
競争のゆがみは必ず悪か
税制優遇による競争条件の変化が、直ちに悪影響をもたらすとは限りません。
技術革新や賃上げが社会全体の生産性を高めるのであれば、短期的な競争条件の変化は政策目的の一部と見ることもできます。
問題は、その効果が検証されないまま延長や拡充が続く場合です。
- 本当に投資を増やしたのか
- 本当に賃上げを促したのか
- それとも既存の投資や賃上げを後追いで支援しただけか
効果検証が不十分であれば、優遇が既存の強者をさらに強くする仕組みに固定化する可能性があります。
中小企業の視点からの注意点
中小企業にとって重要なのは、優遇制度が競争条件を変えている可能性を認識することです。
例えば、
- 競合他社が税制優遇を活用しているか
- 価格競争力に差が出ていないか
- 投資余力の差が拡大していないか
自社が制度を活用するかどうかだけでなく、市場全体の動きも踏まえる必要があります。
政策税制と市場のバランス
税制優遇は、政策手段として有効です。しかし、その拡大は市場原理との均衡を常に問い直す必要があります。
重要なのは、
- 期限を区切ること
- 効果を検証すること
- 対象を適切に見直すこと
この三点が機能しているかどうかです。
租税特別措置は、原則として時限措置です。継続や延長の際には、競争環境への影響も含めた検証が不可欠です。
結論
税制優遇は、投資や賃上げを促す政策手段として機能します。しかし同時に、企業規模や業種によって恩恵の度合いが異なり、競争条件に影響を与える可能性があります。
競争のゆがみが常に悪であるとは限りませんが、政策目的と市場の公平性のバランスは慎重に管理されるべきです。
税制は単なる財源調達手段ではなく、経済構造を形づくる力を持っています。優遇の拡大は、その影響を含めて継続的に検証される必要があります。
政策税制の議論は、減税額の大小だけでなく、競争環境への作用まで視野に入れて行うことが求められます。
参考
・日本経済新聞 2026年2月19日朝刊「研究開発減税1兆円超え 24年度の『租特』適用」
・財務省 租税特別措置の適用実態調査結果
・税制改正大綱(法人課税関係)
