社長・個人事業主のための新NISA・iDeCo・退職金制度の使い分け

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新NISAの拡大は、会社員だけでなく、社長や個人事業主の資産形成にも大きな影響を与えています。一方で、経営者層にはiDeCoや退職金制度など、立場に応じた選択肢が存在します。
ただし、会社員とは異なり、社長や個人事業主は「制度を自分で設計する側」に立たされます。制度を知らずに放置すれば老後資金が不足し、逆に制度を重ねすぎると資金繰りや税負担に歪みが生じかねません。
本稿では、社長・個人事業主という立場から、新NISA・iDeCo・退職金制度をどのように使い分けるべきかを整理します。


社長・個人事業主の資産形成が難しい理由

社長や個人事業主は、給与所得者と比べて資産形成が難しい立場にあります。
最大の理由は、老後資金が自動的に積み上がる仕組みが存在しない点です。会社員であれば、厚生年金や退職金制度によって、一定の老後資金が半ば強制的に形成されます。

一方、個人事業主や中小企業の社長は、公的年金が相対的に少なく、退職金も自ら準備しなければなりません。
そのため、資産形成は「余裕があればやるもの」ではなく、「意識的に設計するもの」となります。


新NISAの役割:流動性を確保する制度

社長・個人事業主にとって、新NISAの最大の価値は「いつでも使える資産」を非課税で育てられる点にあります。
事業を行っている以上、急な資金需要や環境変化は避けられません。原則60歳まで引き出せない制度だけに資金を寄せるのは、経営上のリスクとなります。

新NISAで形成した資産は、必要に応じて売却・現金化が可能です。
事業の安全余力、将来の設備投資、生活費の補填など、多目的に使える資金として位置づけることができます。


iDeCoの役割:老後専用の節税装置

iDeCoは、社長・個人事業主にとって非常に強力な制度です。
掛金が全額所得控除となるため、課税所得が高い人ほど節税効果が大きくなります。

一方で、原則60歳まで引き出せないという制約は、経営者にとって両刃の剣です。
老後資金として確実に残せる反面、事業が不安定な時期に資金を拘束しすぎると、かえって経営の自由度を損ないます。

そのため、iDeCoは「老後に使うと決めた資金だけを積み立てる制度」として、上限いっぱいまで無理に使う必要はありません。


退職金制度の考え方:社長は自分の制度をつくる

社長の場合、退職金制度は「会社からもらうもの」ではなく、「自分で設計するもの」です。
役員退職金は、一定の要件を満たせば法人の損金となり、退職所得控除も適用されます。

ただし、退職金は一時金として多額になることが多く、受取時期や金額によっては税負担が集中します。
また、会社の財務状況によっては、予定どおり支給できないリスクもあります。

そのため、退職金だけに老後資金を依存する設計は避け、他の制度と組み合わせる視点が欠かせません。


制度の組み合わせ方:優先順位の考え方

社長・個人事業主の場合、制度の使い分けは次の順序で考えると整理しやすくなります。

まず、事業と生活の安全余力を確保することが最優先です。そのための手段として、新NISAによる流動性の高い資産形成が有効です。
次に、老後専用の資産として、無理のない範囲でiDeCoを活用します。
最後に、法人の財務状況や将来計画を踏まえたうえで、役員退職金を設計します。

この順序を逆にすると、資金拘束が強くなりすぎる傾向があります。


インフレ時代に意識すべき視点

インフレが続く環境では、「税制優遇があるから」という理由だけで制度を選ぶのは危険です。
重要なのは、受け取る時点での実質的な価値と、受取後の使い道です。

新NISAは、老後の取り崩しや退職後の運用にも柔軟に使える制度であり、iDeCoや退職金の受取後の受け皿としても機能します。
制度を縦割りで考えるのではなく、資金の流れ全体を意識することが求められます。


結論

社長・個人事業主にとって、新NISA・iDeCo・退職金制度は、いずれか一つを選ぶものではありません。
新NISAは流動性の確保、iDeCoは老後専用の節税、退職金は基礎的な老後資金という役割分担を意識することで、制度の長所を活かすことができます。

資産形成は、事業戦略の延長線上にあります。
制度を正しく理解し、自分の立場に合った使い分けを行うことが、経営者にとっての現実的な資産形成といえるでしょう。


参考

・日本経済新聞「新NISA、2年目は7%増の12兆円 資産形成、インフレで拡大」(2025年12月30日朝刊)


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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