退職後の運用資産として「社債」を保有している方も増えてきました。
定期的に利息が入り、株のように値動きが大きくない。
まさに“老後資金の安定運用”に向いた資産です。
しかし、相続の場面では「社債特有の扱い方」があることをご存じでしょうか。
今回は、税理士・FPの両視点から「社債を活かした相続・贈与・教育の方法」を整理します。
1️⃣ 相続における社債の評価方法
相続税の計算では、社債は「相続開始時点の時価」で評価されます。
つまり、社債を保有している途中で相続が発生した場合、
満期や額面ではなく、その時点の市場価格が相続財産の評価額になります。
| 区分 | 評価方法 | 備考 |
|---|---|---|
| 上場債券(取引市場あり) | 相続発生日の最終価格 | 株と同様に市場価格で評価 |
| 店頭債券(取引市場なし) | 類似債券の利回り等から算定 | 金融機関が算出書を作成 |
| 割引債・ゼロクーポン債 | 残存期間に応じて割引評価 | 利息分が将来収入になるため考慮 |
💡 ポイント
- 社債は評価変動が小さいため、相続時の価格のブレが比較的少ない資産
- 相続財産の中で「現金化しやすい・分けやすい」特性を持つ
そのため、相続財産の一部を社債で持つことは、分割のしやすさにもつながります。
2️⃣ 社債の利息と課税関係(相続時・相続後)
社債の利息は、相続時点では「未収分の扱い」が注意点です。
| 状況 | 扱い | 税務上の区分 |
|---|---|---|
| 相続発生前に支払期到来 | 被相続人の所得(確定申告対象) | |
| 相続発生後に支払期到来 | 相続人が受け取る「相続財産」扱い | |
| 相続後に受け取る利息 | 受け取った人の所得税課税対象(20.315%源泉) |
つまり、未収利息部分は相続財産として含まれる一方、
その後に受け取る利息は相続人自身の所得課税となります。
税理士としては、これを誤って二重計上しないようにすることが重要です。
3️⃣ 贈与による「社債移転」も可能
社債は、贈与により他人に譲渡することが可能です。
特定口座や証券口座を通じて、親から子へ、子から孫へと資産を移すことができます。
ただし、その場合には次のような点に注意が必要です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 贈与時の評価額 | 贈与時点の時価で評価(額面ではない) |
| 贈与税 | 年110万円を超えると課税対象 |
| 登録・名義変更 | 証券会社経由での手続きが必要 |
| 利息の扱い | 贈与後に発生する利息は受贈者の所得 |
このように、社債は現金よりも「分割しやすい」「計画的に贈与しやすい」資産でもあります。
たとえば毎年少しずつ子や孫の名義に社債を移していけば、非課税枠を活かしながらスムーズに資産承継できます。
4️⃣ 高齢期の「社債による現金化プラン」
退職後の10〜20年を見据えると、
「いざというときに換金しやすい資産を持つこと」が重要になります。
社債は、途中売却しても市場価格で換金できるため、
相続前の介護費・医療費・生活費の補填にも役立ちます。
たとえば――
💬 70歳:5年満期の社債を3本に分けて保有
💬 75歳:1本満期で現金化(旅行やリフォーム資金に)
💬 80歳:もう1本満期(医療・介護の備え)
このように、“毎年満期を迎える社債”を設計しておくことで、資金繰りに余裕を持たせつつ、相続時にも整理しやすいポートフォリオが作れます。
5️⃣ 社債は「金融教育」にもなる資産
税理士・FPとして特に伝えたいのは、
社債が次世代への金融教育のきっかけになるという点です。
親が持っている社債を見せながら、
「これは○○という企業にお金を貸していて、毎年利息が入るんだよ」と説明すれば、
子ども世代にとって“お金が働く仕組み”を理解する生きた教材になります。
🔹 預金=銀行に貸す
🔹 社債=企業に貸す
🔹 株式=企業の一部を持つ
この関係を体感すれば、
「お金を預ける」「投資する」「応援する」の違いが自然と身につきます。
社債は、金融リテラシーを家族で学ぶ架け橋にもなるのです。
6️⃣ 相続・贈与における社債活用のまとめ
| 観点 | メリット | 注意点 |
|---|---|---|
| 相続評価 | 時価で安定評価できる | 利息の扱いに注意 |
| 分割性 | 複数本に分けやすい | 名義変更の手続き必要 |
| 贈与活用 | 計画的に承継しやすい | 贈与税・評価額を確認 |
| 現金化 | 市場で売却できる | タイミングにより価格変動あり |
| 教育効果 | 子世代への投資理解促進 | 一緒に運用目的を共有すること |
7️⃣ 「お金を残す」から「お金の流れを残す」へ
相続とは、単に財産を残すことではありません。
次の世代に「お金との付き合い方」「お金を働かせる感覚」を伝えることでもあります。
社債は、
・安全性が高く
・企業活動と結びつき
・家族で学べる資産
として、まさに“相続と教育の中間にある金融資産”です。
税理士・FPとしての立場から言えば、
社債を保有することは、次世代に「お金の流れを引き継ぐ」ことでもあるのです。
📚 出典・参考
・日本経済新聞(2025年10月13日)「育たぬ社債市場、米の1割未満」
・国税庁「相続税評価通達」
・金融庁「個人向け債券・社債の基礎知識」
・日本証券業協会「債券の譲渡と税制」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
