確定申告で経費にできるもの・できないもの ― グレーゾーン整理実務(確定申告・税制改正ナビ 第17回)

税理士
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確定申告の時期になると、個人事業主やフリーランスから必ず寄せられる質問があります。
「この支出は経費にしていいのか?」というものです。
家事との共用、業務との関連があいまいな支出は多く、判断を誤ると税務調査で否認されるリスクもあります。
今回は、経費の原則と判断基準、そして実務で迷いやすいグレーゾーン支出の取扱いについて整理します。


経費の基本原則

所得税法上の「必要経費」とは、

その年分の総収入金額を得るために直接必要な費用(所得税法第37条)
をいいます。

つまり、「事業に関係する支出かどうか」が最大のポイントです。
反対に、私的な支出・生活費・家族に対する支払いは経費にできません。

【基本原則】

  • 事業の遂行上必要かどうか
  • 支出の金額が相当かどうか(過大ではないか)
  • 証拠(領収書・契約書など)が残っているか

経費になる主な支出

区分具体例注意点
仕入・原材料費商品・材料の購入費用事業用に限る
旅費交通費打合せ・出張・交通費・宿泊費私的旅行との区別を明確に
通信費スマホ・インターネット料金事業割合で按分
交際費取引先との会食・贈答品相手先・目的を記録
消耗品費文房具・パソコン・プリンター等10万円未満は原則経費
地代家賃事務所・店舗の賃料自宅兼用は按分計算
水道光熱費電気・水道・ガス代使用割合で按分
外注費業務委託報酬・デザイン料源泉徴収対象の確認
研修費業務スキル向上のためのセミナー費趣味的講座は不可
福利厚生費従業員への慶弔金・健康診断費個人事業主本人分は対象外

経費にできない支出(原則NG)

  • 生活費(食費・衣料費・家族の医療費など)
  • 住宅ローンの返済・自家用車の購入費
  • 生命保険料・国民年金・国民健康保険料(控除で対応)
  • 所得税・住民税・罰金・延滞税
  • 個人的な交際費(友人との食事、冠婚葬祭費など)
  • 家族への給与(届出なしの場合)

グレーゾーン支出の判断ポイント

個人事業主に多いのが、「事業と私生活が混ざった支出」です。
この場合は按分(あんぶん)計算が基本です。

① 自宅兼事務所の場合

家賃・光熱費・通信費などは、事業利用割合で按分します。

  • 事務所スペース ÷ 住宅全体面積
  • 使用時間(例:平日9時~17時使用)
    これらをもとに、合理的な割合を記録しておくことが大切です。

② 車・ガソリン代

  • 仕事の移動と私用の走行距離を記録し、走行割合で按分
  • 車検・保険・駐車場代も同様に按分対象

③ スマートフォン・パソコン

  • 仕事と私用を併用する場合は、通信記録や使用時間で事業割合を設定
  • 家族共有の端末は基本的に経費対象外

④ 会食・打合せ費用

  • 取引先名・目的・日付を帳簿に記載しておく
  • 家族・友人との飲食は経費不可
  • 同業者勉強会など、業務関連が明確なら交際費として認められる

税務調査で否認されやすいケース

  • 「仕事でも使うから」として全額経費化
  • レシートに取引内容・相手先の記録がない
  • 家族名義のクレジットカードで支払っている
  • スマホ・車を私用と共用しているのに100%計上
  • キャッシュレス決済で私的支出と混在

税務署は「合理的説明ができるか」を重視します。
一貫したルールで按分し、メモや証拠を残すことが何よりの防衛策です。


青色申告と経費管理の関係

青色申告者は、帳簿管理を適正に行うことで次の特典を受けられます。

  • 青色申告特別控除(65万円または55万円)
  • 赤字の3年繰越
  • 家族への給与を経費化(青色事業専従者給与)

ただし、帳簿不備や不適切な経費処理があると、控除取消のリスクがあります。
経費管理は節税だけでなく、青色申告の信頼を守るうえでも重要です。


経費の判断を助けるチェックリスト

  • その支出は事業収入の獲得・維持に必要か?
  • 私的要素は含まれていないか?
  • 支出の合理的な説明・証拠があるか?
  • 金額が過大ではないか?
  • 一貫したルールで処理しているか?

迷った場合は「経費にできるかどうか」よりも、「説明できるかどうか」で判断しましょう。


結論

確定申告における経費の判断は、「目的」「証拠」「一貫性」が鍵です。
グレーゾーンをすべて避ける必要はありませんが、
事業との関連性を説明できる記録を残しておくことが、最大の防衛策になります。
AIやクラウド会計の導入により、経費仕訳の自動化・証憑保存も容易になりました。
“正しく経費を使い、正しく残す”ことが、フリーランスの信頼経営につながります。


出典
・国税庁「所得税基本通達」
・国税庁タックスアンサー「No.2210 必要経費とは」
・中小企業庁「個人事業主の経費と按分の考え方」
・令和7年度税制改正大綱(2024年12月)


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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