「取引先が倒産した」と聞いても、
その瞬間に経費(損金)にできるとは限りません。
貸倒損失は、「いつ損金にするか」が非常に重要なテーマ。
時期を間違えると、税務調査で否認されることもあります。
今回は、実際によくあるケースをもとに、
破産・倒産・取引停止のタイミングを分かりやすく整理してみましょう。
1.貸倒損失の“タイミング”が問われる理由
税法では、貸倒損失を計上できるのは――
「回収できないことが明らかになった年度」
とされています。
つまり、「明らかになった年」と「経理処理をした年」がズレると、損金に認められないおそれがあります。
🔸たとえば
2024年度に倒産していたのに、2025年度に貸倒処理した場合、
「時期のズレ」として否認されるケースがあるのです。
2.破産したときの扱い:終結決定がポイント
破産の場合、「倒産した=即貸倒」ではありません。
なぜなら、破産手続中はまだ財産が残っている可能性があるからです。
貸倒損失として認められる時期は、原則次のいずれかの時点です。
| 認められる時点 | 根拠・説明 |
|---|---|
| ① 裁判所の「破産終結決定」または「廃止決定」 | この時点で会社の登記が閉鎖され、債権が実質的に消滅 |
| ② 管財人から「配当ゼロの証明」を受けたとき | 配当の見込みがないと明確にわかった時点で可 |
💡 実務メモ
配当見込みがある場合は、見込み額を除いた残額を「貸倒引当金」で対応します。
(まだ“全額回収不能”ではないためです。)
3.民事再生・会社更生:認可決定の年が損金
民事再生法・会社更生法など、裁判所が再生計画を認可した場合はシンプルです。
その「認可決定があった年」の損金として計上できます。
ただし、再生計画の決定を知らずに申告してしまった場合は、
後で気づいても翌年度で修正できません。「更正の請求」が必要になります。
⚠️「知らなかった」では済まされないため、
取引先が再生手続に入っている場合は、常に官報・公告を確認する姿勢が大切です。
4.取引停止・音信不通のケース:1年以上未回収でOK?
「破産まではしていないけれど、支払いが止まったまま」
――そんなケースは「形式上の貸倒れ」に該当する可能性があります。
要件は次のとおりです。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 継続的な取引先であること | 一度きりの取引(例:不動産など)は対象外 |
| 取引を停止してから1年以上経過 | 最後の支払期日または弁済日から1年以上 |
| 担保がない | 回収見込みがある場合は対象外 |
| 損金処理時に備忘価額1円を残す | 「1円ルール」必須 |
この場合、形式的な要件を満たせば損金にできます。
実際には、「回収不能と判断した証拠」を残しておくことが重要です。
(督促記録、メール履歴、取引停止の経緯メモなど)
5.債務免除をしたときの注意点
取引先を救済する目的で「債務免除(帳消し)」をした場合、
その通知が相手に届いて初めて有効になります(民法97条)。
したがって、内容証明郵便や特定記録郵便など、到達を証明できる方法で通知するのが鉄則です。
相手が行方不明のときは、「公示による意思表示」(民法98条)という制度で官報や掲示による通知も可能です。
(官報掲載から2週間後に「到達した」とみなされます。)
6.時期の判断ミスが招く“否認リスク”
貸倒損失の多くは「損金経理の年度ずれ」で否認されます。
🔻 典型的な誤り例
- 「破産申立て」の時点で処理してしまった
- 「配当ゼロ」が確定する前に損金にした
- 翌年度にまとめて処理した
こうした場合、「実際に回収不能になった時期とズレている」として修正申告を求められることがあります。
7.まとめ:焦らず、でも放置せず
貸倒損失は、早すぎてもダメ・遅すぎてもダメという“タイミングの技術”。
だからこそ、次の2点を意識しておくと安心です。
- 「回収不能」が客観的に明らかになった証拠を残す
- 「その年度」で損金処理をする(経理処理を先送りしない)
💬 「まだ取引先が再建できるかも…」と迷うときこそ、
税理士と一緒に「どの時点で損金にできるか」を判断しておきましょう。
📚 参考資料
- 東京税理士会「令和7年度 第4回会員研修会資料」講師:太田達也氏『貸倒損失と修繕費・資本的支出等の実務』(2025年4月21日)
🧾 次回予告(第3回):
「1円ルール」とは? ― 形式上の貸倒れと税務調査で問われる“備忘価額”の意味
帳簿に残す“たった1円”が、貸倒処理の明暗を分ける理由を解説します。
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
