研究開発税制の実際の仕組みと課題― 技術革新を支える減税か、それとも“節税の温床”か

会計
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■ 「研究開発税制」とは何か

研究開発税制(R&D税制)は、企業が新しい技術や製品を生み出すために使った研究開発費の一部を法人税額から控除(差し引く) ことを認める制度です。
目的は、企業のイノベーションを促し、国全体の成長力を高めること。

たとえば――

  • 企業が100億円の研究開発費を使った場合、
  • そのうち10億円が税額控除の対象となり、
  • 3億円前後を法人税から差し引ける。

といった仕組みです。
つまり、「研究にお金を使えば、その分、税金が軽くなる」という強力なインセンティブです。


■ 対象となる「研究開発費」とは?

一口に「研究開発費」といっても、税法上は細かいルールがあります。

主に以下のような支出が対象です。

区分内容
基礎研究費将来の応用を見越した基礎的研究新素材・新薬などの開発
応用研究費製品や技術への応用を目指す研究半導体の微細化、AIモデル開発
開発研究費実用化・量産化に近い研究自動運転・再生医療製品など

このうち、会計上の「研究開発費」と一致しない点が重要です。
会計では費用処理したものでも、税務上は「通常の業務経費」とされ控除できないことがあり、経理実務は非常に複雑です。


■ 制度の種類:3つの控除方式

現在の研究開発税制は、企業規模や取り組みの性質に応じて複数の枠組みがあります。

種類概要控除率(目安)対象
総額型前年より増えた・減ったに関係なく研究開発費の一定割合を控除6〜10%程度すべての企業
増加型前年より研究開発費が増えた場合、その増加分に対して控除5〜25%程度成長企業向け
オープンイノベーション型大企業が大学・中小企業などと共同研究した場合の控除最大30%共同研究を行う企業

このうち、最も利用されているのは「総額型」です。
ただし、大企業ほど研究費が多いため、実際の恩恵は大企業偏重になりがちです。


■ 「節税テクニック化」の現実

財務省や会計検査院の調査では、研究開発税制を活用する企業の多くが上場大企業であり、中小企業による利用率は1割程度にとどまります。

背景には次のような構造的課題があります。

  1. 経理処理が複雑すぎる
     研究費の区分(研究か業務か)を明確に区切る必要があり、税務上の判断が難しい。
  2. 税務調査リスクを避けるため敬遠される
     研究費の範囲を誤ると追徴課税の恐れがある。
  3. 大企業は“財務戦略の一部”として活用
     研究開発費の振替や会計処理の調整により、税負担を軽くする「財務テクニック」として機能している面も。

まさに藤田文武氏が指摘した「経理処理上の財務テクニックになっている」というのは、この部分を意味します。


■ 効果検証の壁:本当にイノベーションを促しているのか

財務省の最新報告によると、研究開発税制を使った企業の研究費は確かに増加傾向にあります。
しかし、それが新製品の創出や生産性向上にどれほど寄与したかについては、明確なデータが乏しいのが実情です。

さらに、

  • 対象企業の約7割は「従来から研究開発に積極的な企業」
  • 税制がなくても一定の研究費を支出していた可能性が高い
    とされ、税制による追加的効果は限定的だとの分析もあります。

つまり、「税の優遇がなければ研究しなかった」という因果関係が証明しにくいのです。


■ 国際比較:日本は“税制頼み”の構造

OECDの統計によると、日本の研究開発税制による減税額はGDP比で主要国の中でも高水準
一方で、企業の研究開発投資そのものは頭打ち傾向にあります。

欧米では、税制支援に加えて

  • 政府研究機関・大学との直接連携補助
  • スタートアップ支援ファンドの拡充
    といった“実物投資型支援”が並行して行われています。

これに対し日本では、「税優遇中心」の支援構造が続いており、成果が税務書類上にとどまりがちです。


■ 改革の方向性:成果に基づく税制へ

今後の見直し議論では、次のような改革方向が注目されています。

  1. 控除対象の明確化・狭義化
     「研究」と「改良・改善」の線引きを明確にし、形式的な節税を防ぐ。
  2. 中小企業向け支援の拡充
     申請手続を簡素化し、ベンチャー企業の利用を後押し。
  3. 成果評価の導入
     単なる支出額ではなく、「成果・特許・雇用創出」などの実績で控除率を調整する。
  4. 税制と補助金の統合的運用
     研究初期段階には補助金、事業化段階には税制、というように切り分ける。

■ まとめ:見直しの焦点は「公平性と実効性」

研究開発税制は、日本の技術立国を支えてきた重要な制度です。
しかし同時に、「大企業のための節税策」と化している側面も否めません。

いま求められているのは、

  • 真に新しい技術を生む企業に報いる制度設計
  • 形式的な減税を排し、成果と連動する仕組み
  • 透明でシンプルな税制構造

制度そのものを否定するのではなく、「税の再設計」こそが本当の改革です。
藤田氏が問題提起した租税特別措置の見直しは、まさにこの構造的課題への挑戦だといえるでしょう。


出典:
・財務省「研究開発税制の概要と適用実態(令和6年度)」
・経産省「イノベーション促進税制に関する報告書」
・2025年10月6日 日本経済新聞 「維新・藤田氏『研究開発税制も対象に』」


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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